創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

2023-01-01から1年間の記事一覧

青藍

「まだ大丈夫だよ。自分でわかる」 ラーメンをつつきながら言う。熱いのが食えないので湯気を見送り、食い時を待っていた。同じものを頼んで勢い良く啜っているミドリが、向かいの席から茶々を入れてくる。食べながら喋るな。 「アオ、お前は気付いていない…

倫理

無人の商店街を歩いている。夜に冷えた空気が足元から巻くいついて身体の温度を下げていく。ずんと身体が重くなる。 目が覚めた。今ひとつ気分の上がらない空の色、風の湿気、光の加減、私の体調。昨日より寒いらしい。雲が、空をムラなく覆っているように見…

冷静

歩いて一分だからという理由で出てきてしまった。腰が重いことを自覚しているので、やる気の衝撃で為してしまわねば一生何もせず胡座をかいているかもしれない。無精髭と灰色のスウェットを想像したら焦って、相手に連絡を入れることもなく家へ突撃しようと…

梯子

家に梯子が無いから借りたい、と依頼されたのでその要請を受諾し梯子を貸し出した。三日後に、依頼人とは別の顔が梯子を持って訪れた。依頼人の恋人の姉だと自己紹介された。はあ、と憮然と返事を挟んで梯子を受け取った。倉庫へ戻すためにがたがたと物を退…

廃者

あれから、ね…。 なんて悲惨な夢を見たのだろうと悔いるよ。一時の気紛れに気晴らしの逃避が、尾を引いて景観を破壊して歩き回ることくらい予想し得た。愚かな私は今よりもまだ愚かだった。 抓った二指に肉を持って行かれて、鉄の匂いのする赤が開いた穴を埋…

役者

隠してパン粉をまぶして狐色に揚げて、上等なカキフライに見せかけたら誰でも食らって血肉に溶かしてくれるのか? はは、苦手なんだよマジシャンになるのは。 隠すのが、面倒くさいんだよなあ。命に替えたい秘匿はないし。墓場まで持っていく貴重もない。粗…

自分の傷か、他人の傷かというくらいの違いだよ。尤も傷を負った他人を、貴方は他人と思わない可能性が高いから、どっちにしても痛いのだ。 Aメロだけを聞きたい曲がある。サビ前が脳裏に染み付いてノイローゼの予感に戦慄するだけの周回を。刻み付けたい旋…

酢飯

どんな変換機を使っているのか、思わず問いたくなる。発作的に生じた一念を、やはり下らないと思い直して切り刻む。今考えたことは、無しで。絵文字がやたらと散りばめられた文面の生成過程など、突き詰めれば味のしないガムと同じ、食えないものではないか…

詩的勘定

詩がよくわからないと思った。みなカマキリの無機質な目を光らせて蠢いている。そこにもいるねと地上を指差し、話し掛けた存在のある方へ顔を向く。 誰も見えなかった。何もいなかった。 私は独善的な詩興がぐんぐんと鎌首をもたげて目を覚ます様を体の芯で…

投擲

夕日が輝いていた。後光が差していた。赤い煌めきを身体の周囲で瞬かせ、それを纏い厳然たる立ち姿は私を惚れ惚れとさせた。 胸をもぎ取り、窓の外へ目掛けて思い切り腕を振るった。私の目は猫のようにその動線を追いかけ、鋭い放物線を描いて窓から飛び出す…

短文

すごく苛々している。大体婦人科の医者が原因。残りは今日のクソバイト。どっちも私に情報格差で惨めさを味わわせた。根に持つ私はしばらく言う。はっきり言って人間の無能なところはこういうところにある。私も訊かないから無能なのかもしれないが、聞かれ…

伏せることと騙すことは、同義だ。情報にて信頼を勝ち得、金さえ稼ぐ手段に用いている者が、金額を伏せ、数量を伏せ、時間帯の情報を伏せ、一体私にどんな思いを味わわせようと企んで伏せに伏せ騙し討の真似をするのか。 心が折れる。この程度で、と訝しむか…

包み紙

バイトの環境を利己に改変する不思議と対峙する。私は用意されたクッキーの型に自分を合わせられないなら、はみ出た部分を切り落とすか、この型には嵌まれないと言って辞退するかの二択だと思っていた。クッキーの型を変えてくれないかと、頼む権利があった…

気楽

「商品の値段を示す」 気晴らしになるような気楽に取り組める行為や趣味を私は何も持っていない。上達できなくても楽しい、そう思える何かがあるだろうか。あるだろうか。 部屋が離れにあるので、ちょっとやそっと騒いだ程度では、母屋にいる私にはその喧騒…

しやうねん

世の中に、成人しただけのこどもであることを自覚し、決定的で致命的に社会に不適であるこの特徴と腕を組んで屋上から身投げしようと夢想している人間はどれほどの数いるだろう。 担当だということになっている一通りのファイルは中身を浚い、この瞬間から出…

XXとは?

「本の内容を比較する」 脳死です。忙しさに委ねて気持ちを置き去りにすることで、人生の味わいもろとも苦しみを紛らすせこい技。 私には私の目線がつきまとう。主観を取り払うことは絶対的な意味で不可能であること、脳に残るのはすべて私の無意識がフィル…

落ちろ

「新しい住居に移る」 須らく労働は搾取を伴う。クソなのだ。嫌だ、もう嫌だ、いい加減にしろ、誰も働きたいやつなどいないのだ。正々と矛盾しやがる。労働できるやつがすごい風潮はまだ絶えぬ。 落ちたらワニに食われるのだと条件をつけて、ませたガキが見…

脳漿

「貯金がなく、貧しい」 小説リハビリを決めたので、一日でも書かない日があると、一度で元の木阿弥に至ると目に見えている。書くしかない。日記は書かなくても小説は書く。正しく、私が小説だと思えるものを書く。私小説ではないものを。 髪の毛の外側にあ…

季節感

「幹の太さを測る」 ラッパを吹きたいにんげんなのか、にんげんに吹いてもらいたいラッパなのか、小説を書いているうちにわかってくるはずだ。 俺を見るといつだって誰もが、俺を季節外れな生き物だと言って不思議さを隠さない表情を見せる。たしかに旬はな…

「賛成の意見を述べる」 小説リハビリです。創作を目的に生きることが、私にとって快活を見出すための唯一の知識なのです。 相手が何を考えているかなんて、生まれてから今まで数え切れないほど言葉を交わした経験を持つ私にも、わかった試しがない。こう言…

個体

弟が自分とは別個体であることを、本当の意味で理解した瞬間はどこだっただろうか。顎を伝う汗が、重力に引かれてついに肌を離れたあの時だっただろうか。学校から帰って(部活には入っていなかったし、寄り道をする趣味も持っていなかった)、じわじわと苛む…

鉢植え

「敢えて果たす、って書くだろ?」 渡り廊下で交わされる声。移動教室の用意一式を小脇に抱えて連れ立つ。三階の渡り廊下には天井がなく、雨ざらしだ。夏が過ぎ、日差しが和らいだといっても多少のことで、やはり天下に出ると眩しい。目を細める。 また、割…

狭間

なにか特別な日だったっけ。 首を傾げるがそんなことをしても脳内の記憶がポロッと心当たりを弾き出してくれるわけでもなく、今度は反対側に首を傾げる。私は考え事をしているとき必然的に目つきが悪しくなるらしく(自覚もある)、こんなときに人と目が合うと…

御都合主義

人間は核心に触れるのを恐れている。哲学に対して本能的ともいえる恐怖を抱き、如何にして日常に持ち込まずにいられるかを真剣に悩んでいる。今夜のメニューのこと、今度の連休でやりたいこと、片付けなければならない家事(特に掃除は都合がよい)、今日出合…

本音を吐け

妹の部屋で界隈に頭から突っ込めば中道の程度の糖度で書かれた夢小説の本を手に取った。前から存在には気が付いていたが、自分に損をもたらすことの専らな野次馬根性で中を開く。本文は蕁麻疹がでる危険性を回避のため一切読んでいない。煽り文とあとがきだ…

外灯

「今夜はどこに泊まるの?」 「選んでいいよ。ここらは選択肢が多いから」 幼稚園で指定されている帽子、浅いつばがぐるりと付いている黄色いあれ、を右手で目深に引っ張り、つばの影から年相応に大きな眼が私を見上げる。その視線を避けるようにして私も同…

猥談

人生の未完成を自覚している。仮初の完全を謳うとき、ひとは真に充足する。私はそう考えている。日々への物足りなさ、不甲斐なく怒りが染色しにくる様、浅はかである所業を何一つ許せなくなるだけの余裕の無さ、自己嫌悪。言い方は多種多様である。つまりは…

おはなばたけ

常夜灯は消した。毛布とシーツの間に転んで首まで毛布を引き上げる。毛布の上には羽毛布団を載せている。以前テレビの教養バラエティ番組(という表記で伝わるか?)で毛布の方を上に被せたほうが保温性が高くなると紹介されていたのを思い出す。冬が来るたび…

私小説

どうにかして自分の時間は止まらないだろうか。壊れないだろうか。巻き戻らないだろうか。 秋の空は高いという。雲が地表から高いところに発生するのだ。夏と比べたときの話だ。だから秋の空は高い。高くなったように見える。 あっそ。秋の雲はぼやけていて…

風向き

五ミリ方眼のノートの見開きが文字で埋まった。僕はある程度の満足を感じ、湿った目元を乱雑に拳で拭う。紙面に散らばった消しカスを机の下へ叩いて落とすと、そのノートを小脇に部屋を出た。 階段を下り、玄関でサンダルを突っ掛ける。風が髪を揺らすのを感…