創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

冷静

歩いて一分だからという理由で出てきてしまった。腰が重いことを自覚しているので、やる気の衝撃で為してしまわねば一生何もせず胡座をかいているかもしれない。無精髭と灰色のスウェットを想像したら焦って、相手に連絡を入れることもなく家へ突撃しようとしている。それが現状。

今から行きます、と、これもかなり礼を失している宣言をLINEに放って多少なりとも免罪符を手に入れようと思った。せめて。左足、右足、上着の左ポケット、右ポケット。どこも軽い。無いわ、携帯を持ってきていない。家に置いてきたようだ。

 

一年分の勇気を振り絞ってチャイムを鳴らした。じりじりと立ち尽くして、お互いに社会人の年齢なんだよなと考えた。訪ね方が小学生のそれじゃないか? ビジネスマナーって知ってるか?

「久し振り。急にどうした」

「あ、あう、あ…」

部屋に通された。小学生時代にいつも案内されていた部屋だった。記憶と同じ見取りに部屋が位置していることに感動を覚えた。もしかして、俺は相手をイマジナリーフレンドだと疑うようになっていたのか? 友人無人年数が長いから。いや、じゃあ今俺を家に上げてくれたこの人は友人ではなくなったのか? いつから。つうか友人だったことがあったのか。友人だと言って良かったのか。友人だと、言ったことがあったか? この人は俺の友人か?

「俺と合作してください。短編ひとつでもいいので、少しでもいいので人と一緒に作った経験が欲しいのです」

度胸があれば膝を付いて、両手を付いて、頭を垂れて畳を間近に見ながら、見様見真似の誠意で以て頼み込むつもりだった。イメージトレーニングは行ったが、土下座すればなんとでもなると思っているなどと指摘されては生きてゆけない。そう思われるのもとても辛い。臆病になって土下座はしないことにした。現実の俺は自白を迫られた容疑者の如く視線を彷徨わせ、気を抜けば頭が白飛びしそうな緊張ではらはらしている。襖、時計、天井、畳、壁の角、ああ、情報が頭に残らない。

「忙しいので無理というなら引き下がります遠慮なくそう言ってください。あ、あのもしその場合でしたら是非ひとつ頼みたいことがあるのですが…」

相手は合作の要請を受けるとも断るとも答えていないが、俺が一方的に情報を開示していくので話の全貌を明かすことにしたらしい。俺に先を促す。

「俺の息の根を止めて欲しいのです」

「え?」

相手が動揺を隠さない。自分の両手を見下して蒼い顔をしている。その手で首を絞めるイメージが脳内に浮かんでいるのだろうか。なぜか内心でほくそ笑む気持ちになった。

「ん…?」

「んん?」

「…お前…」

相手の口調ががらりと様変わりした。先程まで伸ばしていた背を歪めて、前傾して肘を付く。手指で唇を弄りながら、威圧するように見てくる。見透かされる気分がした。落ち着かない。

「えっと、久し振り…」

「お前、お前…ほんまに…。前と同じこと言ってんじゃねえかそんなに死にてえか!」

「え、うう、まあその…」

もし二面性があったとしても、この時の気持ちはすまないとだけであった。ただその一心。俺は自重で感覚が無くなっている脚を寄せて、腿の上の手を握り締め、できる限り首を縮めて必死になった。

「同人誌一緒に出したらええんよな!? やるぞ来い部屋!」

「は、はい!」

扱いが荒かった。この人生でこんなに粗暴に扱われ虚仮にされたのは初めてだった。興奮した。