ファンタジーな題が付いているが、全然そんなことない。漫才みたいな小説。ギャグっぽい。
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2022/7/8
露伴の家は広い。何度か訪問したことがあるが、 すべての部屋を探検できたことはない。 他人の家で探検と称して家探し紛いの行為に出るのは誰しも嫌悪を 顕わにするものだろうから、そのくらいの遠慮はする。 便所を借りたいなどと適当を言って勝手にうろうろしてみる方法も 無理ではないが、見つかるとしんどいことになる。確実に。 説教は時間単位で終わらないだろうし、 俺の周りの人にこの一大事を触れ回り孤立無援に追い込むぐらい軽 くやりかねない。精神ダメージで打ち負かすタイプと読んでいる。 だって物理では俺が勝つもん。
「なぁ、押し入れみたいなもんねーの? 掃除機仕舞ってるような場所」
「は? 押し入れの場所を知ってどうするつもりだ」
露伴はポットに熱湯を注いだり、 食器棚からティーセットを出したりと動き回りながらも俺の方に顔 を向け、普段通りの不機嫌そうな表情で睨んできた。いや、 少し困惑とか怪訝が混ざっていたかもしれない。 眉を寄せるほどの不審を感じる必要はないとわかってもらうため、 思いついた言葉で説明を試みる。
生活感ってやつがあまり無いから掃除機を持っているのか気になっ たとか、 押し入れに変なもん封印してあったら面白いなと思ったとか、 誤魔化そうとしたはずが全部本音を言ってしまった。 また露伴の不快指数を上げたかと恐る恐る目配せしてみる。
「ふん…押し入れか。越してきて以来見てないな」
久し振りに覗いてくると言い残し、 露伴は階段の上へ消えていった。 湯気の立つ澄んだ色の飲み物を俺の前に出して、 さり気なく洋菓子も開けてある。 口では俺を嫌い嫌いとばかり言うくせに、 行動が反して気遣いや礼儀を重んじている所のギャップというのだ ろうか、悪い奴じゃないんだよなあと微笑ましい。 発言の方がマイルドになれば尚良い印象を持てそうだけれど。
紅茶は熱かったので冷めるまで菓子に手を付けつつ待っていた。 時折ふーと息を吹いてみたり、僅かに口に含んでみたりした。 もう暫く熱そうだった。
思い出したように階上が喧しくなり、 興奮気味に何かを口走っている(足音が大きくて聞き取れない) 露伴が階段を転がるように降りてきた。 屋内で息を切らす姿には奇異を感じたが、 指摘するのは相手の思う壺と考え、 それは癪だと仗助は素知らぬ顔で紅茶を啜った。 あと一歩という温度だった。
舌先を空気に晒している仗助の向かいにドカと陣取り、 表情筋の緩みが隠せない顔で「翼を見つけた」と言う。 ゆっくりと視界高に持ち上げられたそれは確かに羽のようだった。 天使が付けていると言われてイメージする、 白くて体積が大きくて重そうな見た目だった。 押入れに入ってる物品じゃあねぇだろうとツッコむのは容易だが、 露伴なら持っていてもおかしくないのではと考えてしまう。 どうやって漫画をかくのに活かすのかは見当が付かないが。
「それ露伴の?」
「多分な。 もしかすると僕は天空から降り立った人外かもしれない」
「え、人外? 言い方悪いけど外人じゃあなくて?」
驚きが偶然成功したマシュマロキャッチに対するそれみたいになっ ている。…それだと正しくないな。例えるなら、 ずっとピザだと思って食ってたものが実はクレープだと告げられた みたいな感覚。梯子を外されるってのはこういうことだろうか? 違うか。
「なんてな。嘘だ」
一対の白い羽を両手に持ち、 鶏のモノマネみたいな動きをする露伴は喧嘩を売っているとしか見 えない。嘘で騙されたことは不問だ、 しかし馬鹿だの間抜けだのと鳥の真似舞踊をしながら挑発されたの は喧嘩案件である。買う。
菓子は一段落付いてからだ。 仗助は机を派手に叩いて立ち上がった。
解説︰毎度毎度ここで補うなんて未熟だなあ。