創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

寒中食 露仗

寒い日も局所に身を置いて経験を惜しまぬ露(ノリのいいばかな露仗)

 

幾許か気怠そうな顔で朝食を食っていたくせに、食後一時間ほどが経過して、露伴が顔つきを変えた。仗助は呆けてそれを見ていた。今日は休日であるから暇を持て余して、何となしにスイッチを押したテレビに喋らせ続けている。

「よし、昼は外で食うぞ」

「外食? この寒いのに出るんすか? でも露伴の奢りなら断る選択は無いけど」

「外で食うんだよ、外食じゃあない」

「言ってることがいまいち…」

露伴はつい先程まで腰を沈めこんでいたソファから立ち上がり、こうしてはいられないとばかり、靴音を鳴らして家中を歩き回り始めた。宛てなくうろついているわけではないようだが、右へ紙きれを運んでは、左へ鉛筆を持って移動し、やれメモを取る紙が手元に無いだのやれ広告がどっか行っただのと喚いている。付近の人の神経に障るのが目的なのかもしれない。たまに遠回りなこの手段で俺の気を引こうとするからだ。仗助は分析した。否、訂正。たまにではなくかなり頻繁にである。

煩いなと思いはしたが、このままテレビを見ていることも可能である。相手するだけ疲弊するというか、基本露伴に関わることは大なり小なり事件に巻き込まれることを指す。態々自分をやつれさせることもあるまい。

 

「駄目だ」

結局露伴の相手をしてしまう。仗助はがっくりと肩を落とした。なんというチョロさ。相当に扱いやすい人間だと思われているのだろうな、と自嘲し心が暗くなる。くるくると部屋と部屋、廊下の隅まで駆け回る露伴に付いて動いてみる。すぐに邪魔者扱いされて睨まれるが、こいつの威嚇は形だけ、こちらが折れなければ向こうが折れて妥協する。寧ろ露伴は俺に追っかけてほしいと画策して言動する節さえある。確実にある。本人に聞いたことはないが。

速足で屋内の各所に散らばったアイテムを集めては、露伴はそれを仗助に渡した。荷物持ちの様相である。スーパーの広告や、某弁当屋のメニュー写真の載った広告、時節のずれた鰻の大写しの広告など、どれも揃って広告であった。新聞に挟まっているあの広告である。そして又全てに共通するのは食べ物の写真が印刷されていること。仗助は首を傾げて広告をぺらぺらやりながら、露伴の後に従った。

 

「まじで?」

「まじだよ、嫌なら中に居ればいいだろ」

「風邪引いたらオメーのせいすよ」

「ハッ、風邪なんか引くわけないだろ、仮にもお前だぞ」

「ははは…何が言いたいんすか…」

 

寒風吹きすさぶというのに、露伴はテラスで昼を食べると言って聞かなかった。炊き立ての白米を三合、ジャーをコンセントから引き抜いてテラステーブルに乗せた。このジャーの違和感が持ち運びの前例のないことに起因すると解き明かした露伴が、炊飯機片手に下げてピクニックも興があるとにこやかに語っていた。それを横目に仗助は上着を取りに一度部屋に戻った。

上着を着こんで席に着いた仗助は座面の冷え切っているのに驚いて、有無を言わせず露伴にも厚着を強いた。鬱陶しそうな表情は仗助の怒りを呼んだが、我慢。自爆で風邪を引いた露伴なんて特に見たくない。漫画が描けないと八つ当たりするんだろう。この漫画狂。

「よし、準備は完璧だ」

肩回りをごわごわと気にしながらも、漫画狂が常の企み顔で笑う。茶碗に米をよそい、二杯分机に並べる。一方を仗助に差し出して、食事を勧め、勧句を言い終えるが早いか否か、派手に破顔した。背中を丸めて縮こまるような忍び笑いが止まらない。仗助も釣られて多少失笑したものの、状況がわからないせいで苛々してきた。何も面白くないんだが?

「ここに広告があるだろ、一年かけて僕が厳選した食意をそそる写真の数々だ。一回やってみたかったんだよなァ。しかし寒いな! 季節を間違えた感がある、フハハハ」

「……」

「もしかしてつまらないか? なら大人しく暖房の効いた温室で茶碗を抱えて壁を見ながら貪るがいいさ、作業化した食事の無機質をな」

「誰もつまらんとは言ってねぇすけど。これが何なのか説明してほしいとは思ってる」

「これか。端的に言えば想像力の修行」

「巻き込むな」

「だから…」

あーあーはいはい解説の堂々巡り。嫌なら部屋に引っ込んでひとりで食えってな。流れは了解した。無味な昼飯が食いたいとは微塵も願っていないから、ここでがたがたと身体を震わせて、おかずもなしに(露伴は写真でおかずを食った気になれって言いたいのか?)白米をつつくことになりそうだ。なんだそれ。

 

「何してたらこんな馬鹿げたこと思いつくんすか…」

「あ? 愚弄か? 受けて立つから編集部に送れよ」

「あったかい米だけが頼りっすねー!」

「文脈を曲げやがったな。まあいい、秘蔵の一枚は僕だけで堪能することにしよう」

「それ悔しくないっすよ、別に写真見ても食えねーから要らないかなって」

「なんだと」

 

食後、露伴は仕事部屋に籠り、夕飯時になってようやく姿を見せたと思えば渾身の作を仗助の眼前に突き出してきた。カツカレーの絵だった。モノクロとは思えぬ生命に満ち、湯気の立つのがゆらゆらと見えそうである。仗助は反射的に喉を鳴らした。それを確認した露伴は堪らなく満足げな顔をした。