創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

習慣

ある小春日和の日、日が暮れるまでの旅路を帰ってきた奴は、靴を脱ぐなりこう言った。

「鍛えにゃならん。あと、向こう三年は遠出しない」

次の日、前日の疲れを引き摺って、起床は遅かった。しかし筋肉痛にはなっていないようで、これ幸い、と口に出していた。塩味がうまいときは体が危険だと言いながら、カリカリ梅を探している。スマホに指を滑らせて、通販サイトを漁る。それを見守る俺。暇なのか、自分。結局、決心には至らず、スマホを放り投げ、水筒に冷たい茶を注ぎ出した。お供にすると見える。その水筒を小脇に、ランニングマシーンのある離れへ向かった。久しく見なかった足取りの軽さである。なにかインスピレーションが刺激されたらしい。

分厚い本を借りているので、隙間を見つけては読み進めている。返却期限まで三日しかない。全部は読み切れないかもしれない。それでも出来るだけ先に進んでおこうと、黙って本を開いた。

寝ていた。喉が強い渇きを覚えている。お茶を出して飲もう。と思うが纏わり付くまどろみにかまけ、起き上がれない。十分ぐらい経った。二十回は何か飲みたいと主張するのをお座なりに躱し、しかし流石に喉が渇いてきた。唾を飲むのが痛い。飲め飲めとうるさいので、仕方なくこたつから足を引き抜く。

 

奴は三日坊主だった。日記も、資格勉強も、語学も、読書も、なにを始めてもすぐに飽きたと言った。俺が勧めた趣味候補はインドアに偏るから、というのもあったかもしれない。バドミントンも、続いたようで続かなかった気がするが…。あれは俺が今の三倍は動けていた頃のことだから、もしかすると俺の体力量に比例して、バドミントンをやらなくなったのかもしれない。ああ、俺のせいですか…。

「すげえ育ったな」

「やっぱり? 最近体が軽い。前はそこの神社の階段を昇るので足りていたのが、今は二往復はしないと満足できなくなった」

ほう、と言って黙った。気の利いた感想が浮かばなかった。俺は相変わらず体力カスのままだから、どんどんと奴との差ができている事実を再確認しただけだった。焦らなかったわけではないが、まあいいかこのままで、が勝ってしまった。間を繋ぐのに、冷蔵庫の茶を注いで飲んだ。

 

夏の盛りのことだった。あれは事件と呼んで差し支えないと思う。俺の人生の中ではトップに躍り出る位の、驚きをもたらす事件が起きた。

奴が爆発した。体を作る習慣は一日たりとも欠かすことなく続けていて、目に見えて体格が厚みを増していった。桜が散るころに、肩周りが動かしづらいとぼやいていた。奴はそれを、ごわごわする、と表したが、突っ張る感じだったのだろうと予想する。奴はタンクトップばかり着るようになっていた。ゴールデンウィークには、胸が腫れ上がったように大きくなり、自分の真下を見る体勢を取るのが難しそうだった。伸ばしきった首の裏の皮を、恐る恐る眺めた。破れそうだと思った。その後、梅雨入りの頃には、いつ見ても、どこから見ても、風船に見えるようになった。ヘリウムを注入すれば飛ぶかもしれないなと考えながら、新書を読んだ。うどんを食べた。申し訳程度に、図書館までを自転車で往復した。奴は読書に目覚めなかったが、図書館をランドマークにして走ることはあった。俺のタイミングと合致すれば、図書館を待ち合わせ場所にして、各々のペースで集合した。全身が膨れ上がっても、奴は運動するのを止めなかったので、俺もそれを止めなかったので、図書館を待ち合わせに指定した。その日、俺が奴を追い越して、随分早く到着したことで、本能的な危機を悟った。本を選る時間すらあった。

お前、やばいね。動けないマッチョになってるじゃん。

やっぱり? と相好を崩して見せた日、図書館から家までを各自で移動しようと言って別れてから、奴は、爆発した。土手になったアスファルトの上だった。その晩の雨で赤は流れたらしい。見に行ってはいないから知らない。ふと、自宅だと雨が降らないし、どうやって片付けるんだろう、と疑問が浮かんだが、答えを見つけることはしなかった。やらずに済んだのだから、ラッキー、でこの話はおしまいだ。

俺は今日も本を読むが、そこの神社の階段を昇り下りするために外に出る。指先がしわになって、風呂から上がって半日経ってもしわが薄くならないので、決意した。大人しく萎む気は、あまり無かった。



ドラゴンボールで、ムキムキにしすぎて動きが鈍くなる件があったねー。それを思い出したのでこれを書いたような気がする。