創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

綱引き

肩を叩かれた。気軽な挨拶のときの叩き方。しかし僕は別のことに取り組んでいて、肩を叩く相手と藹藹とするつもりはなかったため、そのまま歩き続けた。学校の敷地から出るまで、あと二十歩だろうという距離にいた。心持ち歩幅を大きくして、これで十歩強か。

「時間ある?」
「ない」
渾身の力で肩を掴まれている。体を振ってその手を剥がそうとしたが、すんでのところで右手が登場し、両肩を抑え込まれる。こうなると勝ち目がなさそうだと早々に諦め、首を回して相手の言い分を待つ。こちらから言うことはなかった。
「五分だけ」
 
〇〇だけ、といってその通りである試しは殆ど無い。まず言葉通りにはならない。心理学的には、軽い要望を叶えて、ではもう少し図太い要望を、と段階的に本来叶えたい要望の地点まで小刻みに誘導していくこの手法は、今回の場合、成功といえるのだろう。むかつくなあ、と思う。
僕は持ち前の鶏の精神で、他人の頼みを断れず、なんなら五分以上かかることも受容した態度で着いていった。昇降口の人気はまばらである。全くの無人というわけではないので、複数人が蠢く場所特有のざわめきがある。僕は放課後の校舎に入る手間を惜しみたいと考えたが、指示されれば躊躇なく付いていく所存であった。数秒間立ち尽くしていた奴が迷いなく僕を振り向き、小さく手招きしてみせる。何度か見たことのある仕草だ。おまけに、にっと笑い顔のサービスもあったが、一瞥に留めた。他人の表情を見ただけ、僕の中では努力した方だ。前のめりになって、今にも目的地へ走り出しそうな奴の手招きが呼んでいる。リュックを背負い直して足を出す。
あの子がかわいい、と話していた対象を見ているようだった。顔はわかるが、学年が同じであること以外の共通点はない。ここ数週間の奴の話題はあの生徒についてばかりであった。内容は似たりよったりですぐに聞き飽きたが、好意を人に吐露できる能天気に、好意を覚えた。うらめしいな、と思った。捻れた思想を持つように、辛い目に遭えばいいのにな、とか。他人は自分とは同化しないことを知らないんだろうか、教えてやろうか、とか。奴は変わらぬ体勢でその生徒を見続けている。僕は膝が痛くなってきたのでいごいごし始めた。半歩下がって、奴を視界に入れる。この方が多少は退屈しのぎになるだろう。リュックを肩から降ろし、足の間に挟んだ。水筒を出して、傾けながら奴の背中を盗み見た。いち、に、さん、し…。
ご。
予想通り。
僕は表情筋に無理矢理に言うことを聞かせた。黙って奴を見ていた。縋る目で僕に体を向ける様が、堪らなく無邪気だ。こいつには罪があると思った。僕が押し付けた存在悪に等しい罪。無垢ゆえのそれ。ざまあみろ、俺。
 
 
付かず離れずいることに危機感のない世界観。これは理想。全員自分。みな距離感を熟知している。快適の骨頂であろう。夢に沈め。