好きになるのに理由は無いとか、要らないとか言う。 それは本当だろうか。否、 理由を探すことを放棄して良しとしていいのだろうか。
いいとは、誰にとっていいのだろうか? 自分? 「私は対象におけるこの要素が離れがたく気に入り、 好感を持ったので好きだ」なんて、 迷った自分に言い聞かせるのか。言い訳か? 浮気をしない言い訳を拵えているのではなければなぜ理由が要る?
困った。
僕は君のことが好きなのかなと尋ねた。 奴は青ざめた顔で見てきた。 アンビリバボーと言いたげな目をしている。 徐ろに口を覆った手が、吐意を我慢した仕草だと気付いた僕は、 奴の肩を引っぱたいた。
「よーくわかった、僕はお前が嫌いだ」
ごくごくまともな、真剣な悩みだったんだぞ。 ふざけた対応しやがって。ちっとも痛くなどなかろうに、 大袈裟に肩を抱いて身をよじる仗助を見ていると、 苛々と頭の血が湧きそうになる。と同時に、 耐えられない笑いの波に襲われる。腹を立てながら笑点を超す。 青筋を立てて腹を抱える僕はまるでおかしく見えるかもしれない。
ちょっと涙が出てきた。 拭うついでに窓の奥に控える天空を仰いでみる。
「お、形のはっきりした夏らしい雲じゃあないか。行くぞ」
「俺残っていいか? 外暑いだろ」
「着いてきたら笑わせてやる」
仗助は、 受けて立つっスよーと能天気な声で僕の後ろを着いてきた。 もう笑ってんじゃあないのかと野暮な発言をかましたくなる。 自動ドアの外側は思った以上の熱気で、 間もなく汗が吹き出して肌を伝う。日が照る街は白く光っていた。 ビルの横っ面を見ているだけで汗ばむ。
自分も熱気の中に居るのだと考えると、 今を味わった気分に浸れる。 熱意に呑まれた人の姿が素晴らしく映えて捉えられ、 そこにどんな理由があるかなんて具体は要らないんじゃないか。 情熱を手向ける理由を作り出すなんて、 自分の熱で灰になるのを怖じける態度ではないのか。 燃えればいい、存在感増す夏の太陽のように。
解説︰
これ(解説)セコいわな。だが書く。