今年一番の寒さに初対峙してこたつに籠城する露仗
灰色の雲が厚かった。冬がすぐ背後まで迫っていた。 仗助は窓の外、太陽が顔を出す隙もない天空を眺め、 こたつに体を潜らせた。 左辺でスケッチブックを抱えて絶えず鉛筆を走らせている露伴の足 をつついてみる。爪先で衣越しのふくらはぎを触れる。 お互いに裸足だったから足先に直に触れられた。 露伴の爪先は冷たかった。 かれこれ一時間はこたつの中に突っ込んだまま、 両脚は温められたはずなのに。
冷え冷えじゃねえか、と半ば思わず呟くと、 一瞬間を置いたのちお前のは熱いよと反応がある。 仗助はこたつ布団を首まで引き上げ、 天井と真向かいになった仰向けで、 自分のではない足を戯れに蹴ったり敷いたり押してみたりした。 天井にくっつけられた照明が点いていた。 今日は太陽が隠されているのだった。人口灯の不健康さを思う。
「いてっ」
「鬱陶しいんだよ、邪魔するな」
「温もりを分けてやろうかと」
「要らない」
「君は体の末端である手足が冷えている人間に、 お前は手足の先より心が温かいのだと言って励ましたつもりになる 質の輩か? もしそうなら断るが、僕はそんな非科学的な気休め発言、 見飽きたんだよ。それで誰が絆されると言った? 末端冷え性が辛いだろうと同情するつもりか。 決めつけも甚だしい。 それから僕は自分を末端冷え性だと診断して施術を要する見方はし ていないんだよ…って、くそっ… 何を言いたいのか分からなくなったじゃあないか」
「ぎゃあ。つめてえ」
こたつの中では四本の足が暴れていた。 暴れると表するには過激が足りないが、 ヒーターやそれの接着する中天(天板の裏を呼ぶ名前らしい) を膝が叩いてがたがたと机が跳ねた。 露伴が追加でその両手を布団の下へ差し込んで、 人間湯たんぽのような仗助の足で暖を取り始めたのでおかしかった 。もうみんなこたつヒーターに直接当たりに行く。 全身がこたつと、 こたつ布団の四角い領地の内側にすっぽりと収まってしまった。 ヒーターが駆動するかかかか、という音、 世界を赤く見せる温熱の光、 ふたりはお互いの顔が真っ赤に照らされるのを見ながら笑っていた 。本番の寒さが始まった日のことだった。