創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

七夕目前の露仗

まだ梅雨明けはしないらしい。当日は雨だろうか。天候を気にして一喜一憂しなきゃならないなんて、織姫と彦星は忙しない。梅雨が被らなければ気楽になれたろうに。
宵口に降り出した雨で風は冷たくなっている。窓を全開にして、湿ったそれを肌に浴びる。なあ、と隣でくつろぐ仗助を呼ぶ。うつ伏せになって携帯型ゲーム機で経験値稼ぎでもしているのだろう、お座成りな返事の後にちらとこちらを見た。違和を確認した、といった様だった。気に留まることは無かったらしい、ドット絵に向き直りボタンをぽちぽちやっている。
「七夕が近いだろ、あいつら毎年雨でおじゃんになるのをヒヤヒヤして当日を待っているんじゃないかと思うと、短冊に我欲を垂れるのが非礼に思えるなぁ、なんてな」
露伴てロマンチスト? 意外ー」
「…今のは聞かなかったことにしてくれていい。寝る」
夏用に押し入れから出した薄手の布団を被って横を向く。開けたままの窓枠から見える黒い天が雨を零す日がまだ続くのかと思うと、打ち水効果を喜ぶべきか彼らの逢瀬が妨げられるのを憐れむべきか迷ってしまう。柄にもなくそんなことを悩むのは、少し疲れているからかもしれない。気付かぬ内に蓄積する澱が見逃せぬ値に達したのだろう。
もう寝ようとしたのだが、こういう時睡魔は役に立たない。どこへ行ったのか。眠れないのでなんとなく背中に意識を寄せて、仗助の気配を読んでみる。勘でしかないが、奴が何か言うと思った。
まあ、読みは外れたが。あいつはゲームにお熱だそうだ。別に怒っているわけじゃない。音のない溜息が喉からするりと抜けていく。
 
天の川は地球から見た他の星々の光なのだから、雲よりもずっと高いところにある。星の河を渡るふたりが、地球を覆う程度の雨雲を理由に会えなくなるわけがない。地球視点の我々が自己中心的に悲しんでいるだけだ。なんたる悲劇。およと流す涙は舞台の人物には向けられていない。常識的に考えれば単なる独りよがりの妄想とすぐわかる。
僕はあいつに言ってほしかったのだろう。馬鹿だなと、憂事を掻き消す間抜けな顔で。これは依存かな、どうしたものか。
「もう寝ろ。寝ないなら電気だけ消せ、眩しくて寝れん」
「んー、俺も寝る」
従順に照明の電源スイッチを切りに立ち上がる音。足音。寝る前の起立を面倒がらないのは立派だなと、軟弱に寝惚けていそうなことを思う。ふわと暗闇が降りてくる。直ぐに仗助が布団に入る気配が伝わる。
「七夕当日に会えなくてもいいんじゃねぇの? 前日とか次の日とかあるし」
ぽそ、と不思議そうに呟いて、姿勢を落ち着けたらしい仗助は静かになった。
えーっ日程変更していいのか? 鳥にも予定があるんじゃないのかー? …と、言いたかったが止めた。十分眠くなっていた。