創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

再会(露仗)

寝ている時に見る夢のような、俄に現実と信じられない記憶が脳の深いところに埋まっていた。何かあると気が付いていたものの、当面の生活に支障はないと直感し、それとなく無視した。
知らない町、覚えのない自分の服装、ぼやけて触れないほど曖昧な誰かの声、外見。言語化を試みようとすれば一気に色が褪せてしまうような逆進性を放っていた。
 
俺は学生だ。この四月からは高校二年に進級する。校門をくぐる前から聞こえる浮かれた生徒の声を掻き分け、クラス分けの貼り出しの前に立つ。知らぬ間に複数人が俺の周りに付いていて高い声で話し掛けてくるどうせなら人混みに入って俺の今年度のクラスを確認してきてほしいと思わないでもないが、パシリをさせるわけにはいかないだろうなと思いとどまる。
ずらずらと名前が並んだ一覧から、自分のものを探す。たしかうちの高校は五クラスあったから、もし五クラス目に確認した名簿に載っていたら相当な労力と時間を使うことになる。うーん、なんとも非効率だ。ただ、見つけた瞬間ちょっと嬉しいあの感じは日常で味わえるものではないと思うし、よくつるむ奴と同じクラスかどうかが判明するまでのドキドキも悪くはない。うん。
「お前何組?」
「や、ちこっと待ってくれ。今探してんだよ」
「はぁー…、早くその無駄にデカい図体を退かすかしゃがむか縮めるかしてほしいもんだよなァ。見えねぇんだよデカ男」
始業式という心機一転新たなスタートという日に、華々しく喧嘩を売ってきたその男は、ネチネチと文句を尽かすことなく口を回し続けた。挙げ句俺が変な髪型で見るものに奇天烈な印象を与えているとかなんとか抜かしたので、すかさず一発お見舞いするべく振り向いた。その時急流のように、或いはバランスを失った書類の山が雪崩れるように、脳の奥底から引き摺り出されるものがあった。
「…てめぇ、岸辺露伴…!」
「よお東方仗助、何時振りだろうな」
右手は露伴の頬を狙い打つ。出会い頭のフックをもろに食らって後ろに体制を崩すのをスローモーションに見送りながら、俺は思い出していた。
こいつとは、何か因縁があるぞ。ずっと前、という表記で正しいのか自信が持てないが、便宜上「ずっと前」ということにしよう。俺はこいつを「ずっと前」から知っている。
前は露伴は学生じゃあなかったはずだが。俺は学生で、学ランを身に纏っていて、そう言えばローファーを何時も光らせておくことに余念が無かったな。雨天だと歩くだけで靴が濡れて汚れるから帰宅後に手入れが欠かせないのだが、びしょびしょの靴裏で露伴邸を歩き回ってスタンプする嫌がらせが楽しかった。あの時露伴は何つったっけ、まぁ激怒か非難かの形でネチこく言われ続けたような気がする。あんまり思い出せない。それに何だこの記憶。しょうもな。
吹き飛んだ露伴は周囲のどよめきを受けつつ手を借りて立ち上がる人口密度の高い場所で暴力沙汰とあっては冷静ではいられない人間の心情だ。怯えて距離を取る生徒の輪ができ、俺と露伴が即席の土俵に投げ出された。
「相変わらず仗助で安心したぜ」
そう言って両手を上げ、ひらひらと動かす。戦意は無いと示しているのだろう。俺が髪型のことだけは誰であろうと容赦しねぇと拳を握ると、意に介さない様子で流された。知ってる知ってると笑う軽々しさには怒りを禁じ得なかったが、こいつが露伴なので諦めた。多分今度のは態と言ったのであって今後は言うつもりがないのだろう。「前」と同じように。
初対面で顔の形が変わりそうなくらいに殴り付けた一件に思いを馳せて、二度も同じ目に遭わせないと学習できない馬鹿ではないよなと表情を伺う。…露伴は俺の横をすり抜けてクラス表を見ていた。反省、したんだろうな? してなかったら殴るぞ何度でも。
 
「嬉しいか? 同じクラスだ、宜しくしてくれても許してやるよ」
なんて上から目線なんだろう、と震える俺をとても楽しそうに見ている。はぁー、腹立つ。この顔。余裕ぶっこいてにやにやしてやがる。前々からそうだったが、露伴はかなりガキ臭い奴だ。何かとちょっかいを出してくる。俺も応戦したし、たまに仕掛ける側だったから自分のことを棚に上げてどうこう言っても説得力に欠くが、すげー暇なんだと思う。時間と遊びたい心を持て余しているのだと思う。
また、下らなぇ発想力のぶつけ合いが始まるんだなあ。嫌じゃあねぇけど。
「暇な時には宜しくさせてもらおっかなー」
「へぇ、君に暇じゃない時なんてあるのか。何時だ?」
「そんなに知りたいスか、やっぱ露伴スねー」
「何が言いたい。あと口調、一応今は同級生なんだぞ。デカい成りして僕に従僕するか? 歓迎するが」
そんなの御免だぜと笑い飛ばし、一足先に靴箱で上履きに履き替える仗助を歩いて追う。やたらめったら飾られた桜のペーパークラフトは興醒めさせるに十分なのだが、今日は心浮き立つ春の日を的確に表したものと共感できて、自分の気持の浮かれ具合も相応と気付く。全く、どれほど単純なのか。僕は。
 
 
 
 
 
 
かかかか解説︰強制、読め。転パロってやつ。しかしちっともシリアスは無し。死亡シーン無し、今生の別れシーンも無し、転生までの期間不明(クラス分け表ってアナログ手法、今から五十年もしたら無くなるだろうから早死にの即転生っぽいぞ、いいのか私そんなことして)。
書きたかったのはこれ、露が矢印多め。だから仗のことを隈なく掌握すべく問いただすあのシーンがある。「やっぱ露伴」ってのはその部分。
あとこの露仗は子供心忘れないお友達カップルなイメージ。カップルらしいことはしてないかもしれん。マジでキレて、マジで笑って、全力で互いの挑発に乗る暇人…じゃない、相手大好き人(本人らは否定する)。