創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

反応速度の高い露(露仗)

2022/7/11

 

「先生は仗助くんのこといつも気にしてますよね」

向かいに座る康一くんはそう言ってティーカップ越しに僕の反応を窺った。

気にしている、と表すと保育士が園児を見守るそれと混同されそうで癪だが、ある部分では正しく意を汲めているとも思う。康一くん以外の脳筋野蛮人共では為せない繊細な表現だ。

「もう殴られるのは御免だからね」

「警戒心だけですか? 僕には別の…何かと言われたらわからないけど、何かがあるように見えるけど…」

「何か言ったかい」

「え、いや、仗助くんの名前が聞こえると即座に反応している気がするなぁ、なんて」

警戒心ゆえだと諭して話が妙な方向へ流れないように制御する。康一くんは腑に落ちない表情をしているが、僕としてもなぜそんな顔をされるのか納得がいかない。

と、そこに。「あ、仗助」の声と方向を示す人差し指。ぱっとそちらへ顔を上げる。往来が目に映る。それらしい人影はない。

「へへー騙されたー」

もしやと嫌な予感が心を過る。予感ではない。この声は。

挑戦的に薄笑いを浮かべ、逆光の中で僕を見下ろしているのは思った通り、仗助だった。自分で自分の名前を呼ぶ罠にまんまと嵌められ、屈辱で脳が沸きそうになる。息の根を止めてやろうかと破壊衝動が喉のそこまで顔を出すが、辛うじて飲み下す。言えば漫画家人生を棒に振ることになる。嘘でも死ねとは言っちゃあいけない。僕は有言実行のつもりだから嘘になることはないが、一般的には尚更言ってはいけないとなるのだろう。

ふん、よかったな。僕が法律と常識と情けで見逃してやるんだ。この殺意、じゃない、この激昂、一生忘れないからな。

凡そそのような旨の捨て台詞を吐いて、僕はカフェを後にしていた。せっかくの康一くんとのティータイムがおじゃんになった。許すまじ。すぐにでもネタとして昇華しなくては腹の虫が収まらない。

 

「漫画家先生があそこまで俺を嫌ってるとは思わなかったぜ…。すげー顔して指さした方見てたよな」

「…うーん、本当に嫌いだったら名前が聞こえても知らんぷりすると思うんだけどなぁ…」

「いや、あいつは性格が素直じゃねぇからわかんねぇぜ」

 

 

 

 

蛇足解説

隙あらば親睦深めようと距離詰めてくる仗と、心と体の矛盾具合が高すぎて周囲を混乱させている露

後々、自分でも仲良くしたいのか関わりたくないのかわからなくなって悩む日が来る