2022/7/11
露伴は漫画をかいて生きている。昨日、寝付く頃に浮上したアイデアを今朝から実際に目で見て漫画に流用できるとわくわくしていた。先程康一くん(登校中)をひっ捕まえて試させ…いや、試してもらったところ、黄金解ともいえそうな実験結果を得るに至った。
材料を不足はないほどまで集めることができた(すべて康一くんの頑張りである。彼は疲弊して道に伸びている)が、バリエーションを増やしてアレンジをしてみたいと欲目が出た。ネタ探しに邁進する露伴の次の標的は誰であろうか。
億泰に出会った。無理だろ、と論外判定を下しかけたが考える。一見無理っぽいこいつでも魅力を発する力があるかを確かめる絶好の機会ではないか。にやりと悪戯的な笑みを零し、ずんずんと億泰の方へ迫っていく。
果たして、彼に「つんでれ」は似合わなかった。「つんでれ」を以ても隠せない元来の性質。ちっともツンツンしているように見えなかった。照れ隠しの発言ではなく、素での言葉なら「つんでれ」は成立しない。「別に好きじゃないんだからね」や「嫌ならひとりで行くし」など言わせてみたが、良心にグサグサ刺さるような本音の威力を思い知った。自分が嫌われている気までしてきた。
心を痛めているところに、康一くんのモンペが現れた。どうやら臨戦態勢、プッツンモードに入っている。長い濡羽色の髪が意思を持って蠢く。
危なく首を絞められるところだった。命からがら逃げだす機会など一生に一度あれば十分である。露伴は軽く息を整えた。
「えー嫌っスよ、恥ずかしいし」
「千円やる」
「二千」
ひとりでふらふらしている仗助(登校中)を見つけた。前二人と比べるとノリが悪かったが、難なく二千円で買収し、実験に協力させる。露伴は想定していなかった。なぜだか不明だが、脳内でズガンと隕石が落ちたくらいのショックと眩暈を覚えた。
気まずそうに目を泳がせ、薄桃色に頬を染めて紡がれた台詞は悩殺できるくらいのパワーを持っていた。嫌なら来なくていい、とか細く拗ねるような声で呟いた仗助に、思わず返事していた。
「行く。絶対行く」
「…いや来なくていいっス」
怪しむ目をして、仗助は静かに去っていった。露伴は「つんでれ」がよくわからなくなった。