創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

こういうの(仗露)

自ら招いた窮地、しかし根回しをして工作したのじゃあない自業自得。これは良い。紛うことなきリアル。
対峙する男は造作もなく倒せるが、ちょっと能力を行使して書き込んで終了となっては勿体無いと思える。拙くなったら最終手段的にスタンドを出すとして、余裕があるのは事実である、相手を挑発して少々遊ぶとするか。
と、その前に。もうひとつ試してみたいことがある。
水を差すようで悪いと一言添えて左手の平を相手に向ける。俄に挙手した形だ。怪訝な表情をされるが、特に咎めもなかったので気にすることはない。ズボンのポケットから携帯を出す。
「このストラップ、君知っているか? ああ、答えは要らない。僕はしっぽの長い熊みたいなこれの名前は知らないが、別段興味も無い。君がこれを知っているかどうかにも関心がない」
恐らく今の言葉により、相手は険しい目付きに解せぬ半開きの口でアホ面を晒しているだろう。溜息とも唸り声ともつかぬ吐息を漏らして睨んでいるのがわかる。僕が態とこうしていると察せるほどの脳はあるのだろうか?
「少し時間を貰うよ。メールを一通送りたいんでね」
許可するともしないとも答えがなかったので、心の広い男だと感心してしまうところだった。ふ、と短く息を吐いて、ずんと腰を入れた拳を突き刺してきた。拳は防御策皆無の体に確かに叩き込まれ、易易と飛ばされる。座りっぱなしは格好がつかないと、床に手を突き立ち上がる。殴られる快感なんてものは得たくないのだが、殴られる場面はそう多くない。どこで人間は手を上げる程の感情の昂りに達するか、何種類かの人間で観察しておきたいと常々思う。
痛えなァと吐き出しながら手元の携帯でEメールの作成画面を呼び出す。僕の前でまさしくご機嫌斜めな様子の男は再び暴力を奮う気迫を漲らせているが、これに数回食らった程度じゃあ死にはしない。以前あいつにやられた時は酷かった。人が死んでも気が付かず攻撃し続けそうな怒り、激烈な憤怒に比べたら今の相手は目じゃない。
「うーん…文面はどんなのが面白くなるだろう」
ちらりと意見を伺うつもりで向かいに視線を投げたが、駄目だな、会話をする気がないらしい。冷静を欠いて野性に従う蛮人というのは残念なものだ。怒りに飲まれて人語の理解すら放棄するとは。男は四肢を不規則に振り回し、投げ出し、僕はその理性の感じられない一挙手一投足を回避する動きを取りながら、携帯のキーを操作した。いくらか食らったせいで左ふくらはぎやら左腕やら右膝やらが痛むが、当然右手は守った。ついでに顔面もやられずに済んだ。間合いに顔が入っていなかったんだろう。腕のリーチがいまいちだったからな。
送信決定のキーを押し込み、画面に紙飛行機のアイコンがパラパラ漫画的に飛ぶのを確認する。携帯を二つに折り、元の如くポケットに戻す。案外ポケットは信頼できる。走ったくらいじゃあ中身が飛び出て落ちるなんてことにはならない
 
「やっぱりか…。そうだよな、露伴だもんなぁー」
小言を漏らして顔を見せ、奴は脇目も振らず寄ってきた。はっと考えに思い至って飛び退るも、射程距離内から出られないまま負傷を治される。手を掴まれ肩を抱かれ、あれよあれよという間に、これは抱擁か?
「放せ」
「ん、怪我治したのはチャラっスね」
「どうしてそうなるんだ…」
すんなりと解放されたが、腑に落ちない。致死程度の深手でも治さなくていいと言っているのに、いつだって僕に許可なく行動しやがる。治癒後に何を言っても怪我は戻ってこないし、何も怪我人で居たいわけじゃないからもう一度同等の重度に殴れとも言えない。奴の良いように事が運ぶ。不快だ。しかも直す能力を僕に使うなと言ったら、今度はその能力を使った後に別の何かを加えてくるようになった。拒否事案に拒否事案を添えて、一つ目の事案を相対的に水に流そうとする。今回ならば抱擁、これを添える。例えば近日の予定の空きを擦り合わせてどこかへ出かけようと提案してきたり、手を取られ穴が開きそうなくらいじっと手の甲に視線を注がれたり(何をする気だ、とは聞きたくなかったので聞いていない)。
「なあアレ、マジ? 今夜飯作ってくれるっての」
「マジだと思うか? 材料はこの通り調達していない。それにあっても作らない、気分が向かないからな」
「今日も俺かよ〜」
倒れた男は冷たい地面に転がったまま、薄らいだ意識が現実を掠めていくのを感じた。全く自分を気に留めないで去っていく足音が二人分。そのまま帰ってくれればいいと願った。男は己の境遇を恨んだり、他人のそれと取り替えたいと思ったりしたことはないが、何故だか涙が出そうになった。あの二人に気付かれたら、制裁を食らうにしても慰めを受けるにしても、非常な居心地の悪さを覚えると予感した。
ああいうのを、幸せっていうのかな、言うんじゃないかな。
 
 
 
 
解説

 

喧嘩沙汰というピンチにあるのにふざけたメールを送る露伴と、普段のやりとりで命令文しか送られないので訝しがって現場に様子を見に来る仗助の仗露。お互いにしか通じない、裏の読み合いやってる仗露。

ちなみに携帯のストラップはふたりで共通。たぶんいろち。