創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

透明化 露仗

右手首以外透明化した露伴(時間経過で可視範囲は元に戻る)
 
遅い。連絡なしに夕飯を忘れることは暫く無くなっていたのに。初めの頃こそマイペースを崩さぬ露伴が、取材ついでに拾い食いもとい外食を済ませて悪びれず帰宅してきたものだったが。予定を共有しろ、超過分を用意させるな(気持ちがめげる)と幾度となく訴えたおかげで、そっけないが要領を得たメールを送ってくれるようにまで進歩した。先日そのことをしみじみと懐かしむと、俺の顔を見た露伴が落ち着きを失った様子でそっぽを向いた。不愉快そうなオーラを出していたが、きっと心の中は不愉快に染まってはいなかった。そう思う。
異変があったのか、と尋ねるメールを送信しようとして、早とちりだったらな、と迷って、4回繰り返して、結局送信決定を押した。後で多少の小言を食らうくらい、どうってことはない。心配かけさせやがったこの事実がすべてだ。そうだ、心配している。
遠くで着メロが鳴っている。誰かが笑っている。そういえば露伴は俺の笑い声を録音したのを使っている。俺からの連絡は俺の馬鹿笑いが通知するらしい。想像だに羞恥を呼ぶが、実際それを耳にすることは無かったから忘れていた。想像通りに恥ずかしかった。
「何やってんすか、酔ってんの?」
ドアをがちゃがちゃやるだけで、何故か一向に開こうとしない。何をもたついているのか。両手が塞がっているなら他人を使う人間である露伴が、一言も無く、ノブを握って音だけ立てている。
 
「あれ」
外には人の姿はひとつも無かった。しっかり左右を確認するが、音沙汰無し。全く不思議だ。ファンタジーというかオカルトに近い。あまり得意ではないので控えてほしいのだが。
さっき耳にした着メロは何だったんだろうと疑念が過ぎった。超常現象はよくわからない。露伴の方が圧倒的にその分野に明るいはずだ。仗助はドアを閉めようとした。そして腕を引いたとき、気付く。
足元に手首が横たわっている。
は?
事件だろ。
手の甲を空に向けた手首は、四本の長い指で地を這い、意志持つ生物の如く玄関を目指して来る。ここで挟む情報ではなさそうだが、右手だった。親指が所在なげに連れられているのがやけに目に付いた。
 
俺は手首を踏み付けて、これが身動きを取れない状態にした。何らかのスタンド攻撃の可能性がある。靴底の下で逃亡の機を伺っているのか、抵抗の気配を見せる手の動いているのがかなり不気味で足の裏から震えが来るが、たとえばムカデを生きたまま足の下に敷いても同じ感覚に陥ったろう。露伴なら喜んで不快体験にも身を投げるんだろうなと考えたら少し気が抜けた。
「家にやばそうなの来たっす、と」
送信。宛先は勿論露伴である。あいつ本当に遅いな。二人分用意した夕飯が完全に冷めきっている。やにわにため息が出た。
 
げらげらと声が聞こえる。笑う声。ああ、俺の声。録音の。露伴の携帯の着信の。
なぜ、足元付近から聞こえる?