右手首以外透明化した露伴(時間経過で可視範囲は元に戻る)
異変があったのか、と尋ねるメールを送信しようとして、 早とちりだったらな、と迷って、4回繰り返して、 結局送信決定を押した。後で多少の小言を食らうくらい、 どうってことはない。心配かけさせやがったこの事実がすべてだ。 そうだ、心配している。
遠くで着メロが鳴っている。誰かが笑っている。 そういえば露伴は俺の笑い声を録音したのを使っている。 俺からの連絡は俺の馬鹿笑いが通知するらしい。 想像だに羞恥を呼ぶが、 実際それを耳にすることは無かったから忘れていた。 想像通りに恥ずかしかった。
「何やってんすか、酔ってんの?」
「あれ」
足元に手首が横たわっている。
は?
事件だろ。
手の甲を空に向けた手首は、四本の長い指で地を這い、 意志持つ生物の如く玄関を目指して来る。 ここで挟む情報ではなさそうだが、右手だった。 親指が所在なげに連れられているのがやけに目に付いた。
俺は手首を踏み付けて、これが身動きを取れない状態にした。 何らかのスタンド攻撃の可能性がある。 靴底の下で逃亡の機を伺っているのか、 抵抗の気配を見せる手の動いているのがかなり不気味で足の裏から 震えが来るが、 たとえばムカデを生きたまま足の下に敷いても同じ感覚に陥ったろ う。 露伴なら喜んで不快体験にも身を投げるんだろうなと考えたら少し 気が抜けた。
「家にやばそうなの来たっす、と」
げらげらと声が聞こえる。笑う声。ああ、俺の声。録音の。 露伴の携帯の着信の。
なぜ、足元付近から聞こえる?