夕日が輝いていた。後光が差していた。赤い煌めきを身体の周囲で瞬かせ、それを纏い厳然たる立ち姿は私を惚れ惚れとさせた。
胸をもぎ取り、窓の外へ目掛けて思い切り腕を振るった。私の目は猫のようにその動線を追いかけ、鋭い放物線を描いて窓から飛び出す肉塊が窓枠の景色から隠れてもまだ顔を反らせないでいた。燃えるような山の端を呆然と目に焼き付けている私の耳に、柔らかいものを千切り取り、水気が滴る音が届く。まさかと思う。想像は当たっているはずだ。胸を千切った後の展開は見えている。
身体の一部が透けている。こうすると、透明なところは貫通するからハラワタに直接触れることができる。その手はあるものを探している。内臓はどれも赤くて毒々しいまでの強い色彩を放ち、保健の教科書で断面しか見たことのない素人にはパッと見てわからない造形をしている。迷いながら、小腸を捲り、脇に退け、目当ての臓器を探り当てる。思わず、意外と小さいなと漏らした声が聞こえた。
逆三角形なイラストで見慣れた袋状の臓器は泣く暇もなくむしり取られ、これも窓から投げ出された。ここは三階だった。いずれ重力に負けて地面へ衝突する臓器らが窓から駆け出して行く。空も歩けそうな平行移動をこなしていく。しかし放物線を描かずには物は投擲されないのが地球の道理で、胸も子宮も、徐々に地面へ引き寄せられていった。
私はすっきりした様子のその人間を一瞥して、窓辺に誘う。放り出した肉塊がどんな有様で横たわっているか、まずは窓から見下ろした。衝突した彼らはこの高さから落下するのを体感したのだ。地面が私を吸い込む錯覚に襲われて、体がサッシを跨ぐのを幻視する。次に直接見に行こうと言って窓から離れた。幻の私は窓から跳ねて落っこちた。
放射状に赤いものを撒き散らして食えない生肉の様相を呈している全貌を確認し、堪らずといった様子でにやりと口角を上げた横顔を見た。私が丁度ここを歩いている人がいなくて良かったねと言うと、ははははと強張った狂気の笑いが返された。早く帰って休むべきだなと感じた。それを伝えると、鞄は上に置いてきたと言ってにやにやしていた。
あれから姿が見えないなと思っていたら、その人、そうですか。塞ぎ込んだんですか。