創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

気楽

「商品の値段を示す」

気晴らしになるような気楽に取り組める行為や趣味を私は何も持っていない。上達できなくても楽しい、そう思える何かがあるだろうか。あるだろうか。

 

 

部屋が離れにあるので、ちょっとやそっと騒いだ程度では、母屋にいる私にはその喧騒が届くことはない。今度もこの例に漏れず、事後的にそういうことがあったらしいと知った。その事前、彼は数段強く顔をしかめて現れた。ダイニングテーブルに着く私の姿を捉えるなり、およそ彼らしくない発言がひとつ放たれた。私は猫がたまにやるような首の傾げ方をして彼を苛つかせたが、それは些事らしく、息せき切って捲し立てる。塩を撒いてやろうかなと思った。対処の正しさは保証しないが。

「部屋に邪気が溜まっている。そのせいであの部屋では集中してやるべきことができなくなった。風水とか霊力とかが関わっている。浄化してほしい。宛はないか」

「ない」

彼は探偵ものの見すぎによる影響で顎に手をやって考え事をする。忙しなく歩き回る。テーブルの外周を飽きるほど彷徨き、私は読書中だったので自分の心が怒りの沸点に近づいていくのを自覚しながら黙っていた。

獣の唸り声がするので、猫かと思ったが人間だった。想定外の驚きを落ち着かせつつ、驚かされたことに俄に苛立ち、尚もテーブルの周りに電子のように接している足音を妨害する。脛に不意打ちを食らいバランスを崩した脚は、残念ながら体幹を維持したが、彼に怒りは転移したらしい。私は胸がすいた。反撃があるかな、と覚悟した。彼は足の裏を数度床に打ち付けて、それから頭を両手で抱えて唸り、理想の舌打ちを狙うかのごとく舌を打ち鳴らしまくった挙句、一言も無く台所から出ていった。すっと静寂が降りてくる。私は読書空間が戻ってきたことを喜んだ。が、興を削がれてしまったことも悟った。

 

「入り口周りに物が多くて邪気が部屋に詰まっていた」

「見たのか邪気を」

「俺霊感ねえから」

「鼻ほじるな。で、解消したか」

「知らん」

大した報告にはならなかった。人騒がせなやつだと思った。相応に悩んでいた様だからこちらの意識が引っ張られて、邪気問題はどうなったろうかとふとした拍子に考えては、これが思考に織り込まれていることに気付く不愉快と共に過ごしてきたのに。

「そうだ。換気すればいい。どうせ淀んでいるだろうから」

「一言余計だわ。もうしてきた」

「足りねーだろ網戸も外せ」

「てめ、部屋にカメムシ集めるぞ」

そこで二人の意見が衝突した。殺虫剤を買うべきだというところからスタートした議論はアロマ香を焚こうというゴールを迎え、私は彼とスマホを交互に操作して見つけたコーン型の香を通販で購入した。千円した。

その晩、私は天井に這うあいつを目にした。羽音の野太いあの昆虫。布団を頭まで被って寝た。