創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

御都合主義

人間は核心に触れるのを恐れている。哲学に対して本能的ともいえる恐怖を抱き、如何にして日常に持ち込まずにいられるかを真剣に悩んでいる。今夜のメニューのこと、今度の連休でやりたいこと、片付けなければならない家事(特に掃除は都合がよい)、今日出合った不快な出来事、エトセトラ。上っ面を用意して、それで全てに対応しようとしている。出来合いの言葉、差し障りのない応答、八方美人な微笑。誰も、正義を語らない。摩擦不可避な正義の議論を泣いて喚いて避けようとする。

いいか、醜いんだ。

私には勇気がないから他人の正義と私の正義をぶつけて、血を流すことさえ経て、より高尚な正義へ錬成することをできないでいる。背中を押す妖精。思考回路が書き替わるスイッチ。行動を強いられる特殊な状況。きっかけがほしい。今日も家から出ていない。

 

望み通り、妖精が出現した。私のベッドの下を指差して、このジンは何のために買ってきたのかと質問している。しかしその顔がにやけで歪んでいるため、疑問の解消ではなく嘲弄を目的としている感がする。

オーバードーズを起こすためだと、感情を抑えて答える。ここで喜々として語るなどしてしまえば最後、私は永遠に口を閉ざすことを己に強いる。妖精が、薬はどこにあるのかと追って問うので、在り処を指差しで示すと、次の瞬間、私は殺されそうになった。図星を突かれるのはいつだって、誰を相手に取ったって、辛いものがある。甘えんだよ、と一言に過ぎる否定を浴びせられ、私の頭部は壁と衝突した。無力な抵抗の音がした。

頭をぶつけたとき、絶命すればよかったのに、と当然私は想念した。妖精が私の思考を読めるなら、声に出さない心掛けなど無意味だが、私は意識して口を噤んだ。簡単に死ねると思うな、とは言われなかった。

 

「人間ってすごい」

「ふふふ…」

「こんなに疲れるのか。全員でメランコリックになってペシミズムに走ったりシニシズムを纏ったり。場の空気の重さは窒素を予感させるけど、ようやく私と話の合う分野が来たって思うね」

議論を吹っ掛けなくても、沈鬱な面々は独り言にて思想を展開するので、それを傍で拾い聞きするだけで実に様々な主義を収集できた。背中からベッドに身を預ける。快い疲労。いつぶりだろう、こんな清々しさは。

 

手首から伸びる管は、その透明の壁の内側に絶えず液体を流している。とっくに涙は枯れ切ったと悟らせる顔をうつ伏せ、じっとベッド脇の椅子でうずくまっている人影。生命線である管が抜けるからと注意され、腕を持ち上げず掌を重ねる形で肌に触れる。

もう一度、生気の宿った目が見たい。私がそう言ったら、ここに横たわるこの人が何と答えるか。既に知っている気がした。

でも。

 

 

きめえー、ご都合。舌打ち。