創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

一次創作

手帳

あっめえの書こやー。 驚いた弾みに声が漏れる。あっ、という自分の声で顔に血が昇るのを感じながら、急いで手帳をひったくる。相手はしゅんとしたように肩を窄めて頭を傾け、あざとさをひけらかしている。しかしこの手帳は私の物である。覗きに遭っていたの…

臼歯

鰐の巨大で戦慄を誘う大口に挟まれて願い事をしたい。今年は生き生きとした心理状態でいられますように。今日はいい日だったと言って眠れる日が続きますように。平和を知らず享受していられますように。見舞われませんように、如何なる苦難にも。 「日本の伝…

桃の木

結った髪を掴まれたことはあるか。瞼の上から目玉の形を確かめられたことはあるか。爪と肉の間に薄いものをあてがわれたことはあるか。膝を表から蹴りつけられたことはあるか。 暮れていく今日の陽を見たか。 「上を見ろ、上を!」 強引に顎を掴んで上向かせ…

ペットに掛ける言葉は自分の魂に対してあてがう言葉だね。 労り、健康を気遣い、頻繁に話しかけては応答を求める者は、自身の魂をそのように扱おうと思っている。 では貴方はツンデレですね、と彼女は言った。全く笑っていないので、これは強烈なブローであ…

斜光

舞う砂埃で喉が詰まる。ただでさえ肺活量が低下している身体には酷だが、空気のましな場所を探して動き回る力も残っていない。指先がふと反応したことに奇跡を感じている。視界の内に腕があるから確認できるのだ。動かしている感覚はほとんどない。歯医者で…

駄文

「面白い話がある。聞きたいか」 アオカンは二歩前を行く女の頭部を見、そこから表情が読み取れないか試した。すらりと白い顎が、一足毎に揺れている。陰になり明度の低い肌色が無闇に目に付き、顎が彼女の本体であるかのごとく凝視してしまう。グレーのレイ…

咀嚼

高橋くん、と澄んだ山水を思わせる声が聞こえて、僕は戸口に顔を向ける。今は給食後の休み時間で、教室に留まる人間の数は多くも少なくもなかった。寛いでいる面々は小さく群れて言葉を交わすので、これが総員集合した空間で発生した場合どれほど騒音紛いの…

気持ち悪い、気持ちが悪いね。 ぱき、ぱき、ぱき。黙ってしまった良心を辛く思っている良心があるのかどうか、第三者の公正で客観なことばで知らせてほしい。私の良心が息絶えていてもいなくても、頷ける理論で強裂に横打してほしい。 ばったの足に、節くれ…

便を足す

思ったままを書けばいいんだろ? 私に見えたものを、そのまま言葉に換えればいいんだろ? 見栄を張った文を書かないために、読まないために。 とんとんとん、と膝をクッションにして身体を揺らす。肩から力を抜いていく意識で跳ねる。 ふう。 腰高のテーブル…

今年は計100本の小説を書くと決めたので。 どん、と鈍い衝突音がした。二階で家具でも倒した音かと思っていたが、次第に後頭部に痛みが現れた。寝ぼけていた思考が回りだし、床に打ち付けた部分に手を遣ることを思いつく。今の音はこれか。指先で触れた患部…

倫理

無人の商店街を歩いている。夜に冷えた空気が足元から巻くいついて身体の温度を下げていく。ずんと身体が重くなる。 目が覚めた。今ひとつ気分の上がらない空の色、風の湿気、光の加減、私の体調。昨日より寒いらしい。雲が、空をムラなく覆っているように見…

青藍

「まだ大丈夫だよ。自分でわかる」 ラーメンをつつきながら言う。熱いのが食えないので湯気を見送り、食い時を待っていた。同じものを頼んで勢い良く啜っているミドリが、向かいの席から茶々を入れてくる。食べながら喋るな。 「アオ、お前は気付いていない…

梯子

家に梯子が無いから借りたい、と依頼されたのでその要請を受諾し梯子を貸し出した。三日後に、依頼人とは別の顔が梯子を持って訪れた。依頼人の恋人の姉だと自己紹介された。はあ、と憮然と返事を挟んで梯子を受け取った。倉庫へ戻すためにがたがたと物を退…

冷静

歩いて一分だからという理由で出てきてしまった。腰が重いことを自覚しているので、やる気の衝撃で為してしまわねば一生何もせず胡座をかいているかもしれない。無精髭と灰色のスウェットを想像したら焦って、相手に連絡を入れることもなく家へ突撃しようと…

廃者

あれから、ね…。 なんて悲惨な夢を見たのだろうと悔いるよ。一時の気紛れに気晴らしの逃避が、尾を引いて景観を破壊して歩き回ることくらい予想し得た。愚かな私は今よりもまだ愚かだった。 抓った二指に肉を持って行かれて、鉄の匂いのする赤が開いた穴を埋…

役者

隠してパン粉をまぶして狐色に揚げて、上等なカキフライに見せかけたら誰でも食らって血肉に溶かしてくれるのか? はは、苦手なんだよマジシャンになるのは。 隠すのが、面倒くさいんだよなあ。命に替えたい秘匿はないし。墓場まで持っていく貴重もない。粗…

自分の傷か、他人の傷かというくらいの違いだよ。尤も傷を負った他人を、貴方は他人と思わない可能性が高いから、どっちにしても痛いのだ。 Aメロだけを聞きたい曲がある。サビ前が脳裏に染み付いてノイローゼの予感に戦慄するだけの周回を。刻み付けたい旋…

酢飯

どんな変換機を使っているのか、思わず問いたくなる。発作的に生じた一念を、やはり下らないと思い直して切り刻む。今考えたことは、無しで。絵文字がやたらと散りばめられた文面の生成過程など、突き詰めれば味のしないガムと同じ、食えないものではないか…

詩的勘定

詩がよくわからないと思った。みなカマキリの無機質な目を光らせて蠢いている。そこにもいるねと地上を指差し、話し掛けた存在のある方へ顔を向く。 誰も見えなかった。何もいなかった。 私は独善的な詩興がぐんぐんと鎌首をもたげて目を覚ます様を体の芯で…

伏せることと騙すことは、同義だ。情報にて信頼を勝ち得、金さえ稼ぐ手段に用いている者が、金額を伏せ、数量を伏せ、時間帯の情報を伏せ、一体私にどんな思いを味わわせようと企んで伏せに伏せ騙し討の真似をするのか。 心が折れる。この程度で、と訝しむか…

短文

すごく苛々している。大体婦人科の医者が原因。残りは今日のクソバイト。どっちも私に情報格差で惨めさを味わわせた。根に持つ私はしばらく言う。はっきり言って人間の無能なところはこういうところにある。私も訊かないから無能なのかもしれないが、聞かれ…

投擲

夕日が輝いていた。後光が差していた。赤い煌めきを身体の周囲で瞬かせ、それを纏い厳然たる立ち姿は私を惚れ惚れとさせた。 胸をもぎ取り、窓の外へ目掛けて思い切り腕を振るった。私の目は猫のようにその動線を追いかけ、鋭い放物線を描いて窓から飛び出す…

気楽

「商品の値段を示す」 気晴らしになるような気楽に取り組める行為や趣味を私は何も持っていない。上達できなくても楽しい、そう思える何かがあるだろうか。あるだろうか。 部屋が離れにあるので、ちょっとやそっと騒いだ程度では、母屋にいる私にはその喧騒…

包み紙

バイトの環境を利己に改変する不思議と対峙する。私は用意されたクッキーの型に自分を合わせられないなら、はみ出た部分を切り落とすか、この型には嵌まれないと言って辞退するかの二択だと思っていた。クッキーの型を変えてくれないかと、頼む権利があった…

しやうねん

世の中に、成人しただけのこどもであることを自覚し、決定的で致命的に社会に不適であるこの特徴と腕を組んで屋上から身投げしようと夢想している人間はどれほどの数いるだろう。 担当だということになっている一通りのファイルは中身を浚い、この瞬間から出…

XXとは?

「本の内容を比較する」 脳死です。忙しさに委ねて気持ちを置き去りにすることで、人生の味わいもろとも苦しみを紛らすせこい技。 私には私の目線がつきまとう。主観を取り払うことは絶対的な意味で不可能であること、脳に残るのはすべて私の無意識がフィル…

落ちろ

「新しい住居に移る」 須らく労働は搾取を伴う。クソなのだ。嫌だ、もう嫌だ、いい加減にしろ、誰も働きたいやつなどいないのだ。正々と矛盾しやがる。労働できるやつがすごい風潮はまだ絶えぬ。 落ちたらワニに食われるのだと条件をつけて、ませたガキが見…

脳漿

「貯金がなく、貧しい」 小説リハビリを決めたので、一日でも書かない日があると、一度で元の木阿弥に至ると目に見えている。書くしかない。日記は書かなくても小説は書く。正しく、私が小説だと思えるものを書く。私小説ではないものを。 髪の毛の外側にあ…

季節感

「幹の太さを測る」 ラッパを吹きたいにんげんなのか、にんげんに吹いてもらいたいラッパなのか、小説を書いているうちにわかってくるはずだ。 俺を見るといつだって誰もが、俺を季節外れな生き物だと言って不思議さを隠さない表情を見せる。たしかに旬はな…

「賛成の意見を述べる」 小説リハビリです。創作を目的に生きることが、私にとって快活を見出すための唯一の知識なのです。 相手が何を考えているかなんて、生まれてから今まで数え切れないほど言葉を交わした経験を持つ私にも、わかった試しがない。こう言…