気持ち悪い、気持ちが悪いね。
ぱき、ぱき、ぱき。黙ってしまった良心を辛く思っている良心があるのかどうか、第三者の公正で客観なことばで知らせてほしい。私の良心が息絶えていてもいなくても、頷ける理論で強裂に横打してほしい。
ばったの足に、節くれ立って曲がる部分だった筈だけど、生のばったも図鑑のばったも見る機会がなくて怪しいことを言うけれど、ばったは足に耳の器官がついているんだ。
ぱき、ぱき。
あと三本しか残っていない。次を持ってきてくれると、多分、嬉しいってやつだなあ。…自分の心に正確に生きたいんだ。嘘をつくと敏感で、こいつは希死念慮を匂わせる。ほんとうは首を吊る気も絞める気もないくせに、あのくさいジンを呻って何をやってもお前のせいだと責めて背中にはりつくんだ。翳の差した目は感情を削がれたように黒ずんでいて、ふたつのそれが私をみる。見ている。
気が狂いそうな不安定、風に吹かれるロープの上を渡っている時がいちばん恐ろしいのだろうね。早くおちてしまいたいよ。
だからね、私が恐らく嬉しいと思うから、これと同じ型のやつを持ってきてくれないか。色や大きさは別でもいい。素材は同じ位の硬さなら何でもいい。
「道具をさ、こんな風にして、私は何を求めているのかね。被破壊を、逃れた錯覚を見て酔っていたいのか。はは、ざまあない」
十本を超す数の足を掌で転がす。人差し指の第一関節までの長さの黒い足が互いにぶつかり微かな衝突音を立てる。
「記憶を消して、昨日のうなぎを食いてえよ」
頼んでいた代えを運んできた任山が下らないボケを放つ前に、余計な戯言を吐く洞穴に右手の足を流し込む。
「はい、嬉しいです」
「よかったです」
言ってから、背後でぺっぺとやっている。私は肩越しに手首のスナップを利かせて忘れ物を放る。反対の手に収まっている新品のそれが、無口で鎮座している。前触れもなく、良心らしきものが刺突の痛みを訴える。
うるさいなあ。
ぱき。
しゃがんだ方が集中できる。椅子まで戻るつもりだったけど。白い地べたで手元を睨んで縮こまる。
なーんか、死にそうな予感がする。
食中植物の口の形状に似た髪留めの、細い歯を折る話、だ。