創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

キック

ある時まで、引力を振り切ったように飛んでいたロケットは、否応なく地面に墜落したんだ。

 
言いかけては無声音の言葉を喉の奥へ引っ込める、それを何度見ただろう。この仕草をするときの宮本は何かを相談しにきていて、ひとつ目の悩みに回答を与えられた後とか、或いは相談事の開幕に、口をぱくぱくやるのだった。普段以上に景色の奥を見ているような険しい目付きに、じりじりとさせられた。痺れを切らしそうになったこともある。宮本が未知の悩みの在ることを金魚のように匂わせると、決まって次のそれまで反動が表れた。心の距離が空く。昨日届いた場所に居ない。もう少し遠くにいるのだ。ほぼ一定のグラフを描いて、宮本と私は対峙し続けた。
 
どうするのが答えなんだろう。どうしたらいいんだろう。わからなかった。悩みには正解はなく、しかし必要なのが理解だとするならば、私は、宮本の理解を手伝うべきだと直感した。バケツを蹴れば収束すると言って、恐らくひとりで見つけた答えを打ち明ける。沈黙の気配が、小さな声で喋る宮本から漂って、のしかかるように場を支配する。
「少なくとも、刻むステップ数がまだ足りない」
「可逆性がない時間に付き合う余裕はない」
「戻れない代わりに進むんだよ、エントロピーは増大方向に進むんだ」
私には、大破したロケットを完璧に元の通りに直してもう一度天へ見送るまでの芸当は成し得ない。
以前できていたように、空を飛びたいかい。私が聞くと、宮本は予備動作なしに頷く。なにを当然のことを問うのだと軽い憤りさえ見える気がする。
そのパーツを集めてどこかへ保管してあるかい。修理は試してみたのかい。宮本はややあって首を振り、おもむろにある方向に人差し指を伸ばす。顔は伏せられていて、このことを考えるのを避けていたのだと思わせられた。
指の示すは山の向こう。私はベンチから腰を上げつま先で立つ。当然山の大きさは変わらない。ちょっと頭が見えるなんてこともない。
「いけるいける。さ、今日はきれいな雲が流れてるしねえ」
宮本は驚いた表情を僅かに見せ、すぐに平坦な表情に戻る。これから行くのか、だって? 行くさ。バケツを壊すためなんだ。