病院からの帰りだった。はじめの横断歩道を渡り、
中に居ることを何とも思っていない様子であることに眉を歪めてし まうが、 ここに収容や展示の資質を重ねようとする私が珍事を働いているの かもしれない。脳内だけの珍事である。 この世界は誰がおかしいのかわからないから。 自分を漏れなく疑うほうが良い。
足の向かう先は駅である。止まず歩き続ける。
電柱のひとつを過ぎたとき、 当たり前にそこら中に満ちている筈だった空気が張り詰める。 それは僅かに密度を落とされ、息苦しさを催す。 どこかへ流れ出しているのだ。が、どこへ。
どん、とキレのいい衝撃が発生し、私は背中を突き飛ばされる。 激しい風圧が後ろから押し寄せたのだった。 諸手を地面に突いた姿勢から、背後を伺う。 衝撃の在り処はそこにあると直感したのを視覚で確かめたかった。
その目が捕らえたのは、歩道と車道の境目で、 腰を抜かして呆然とする女性に何やら畳み掛けている、 頭髪の長い、人型のもの。砂塵と砂煙の中心を外れて、 その容姿は朧である。長髪がひっきりなしに跳ね、そよぎ、 揺れた。
私は塵の入った目を押さえ、立ち上がる。全身が砂っぽかった。 時々目許を擦ってしまいながら、駅へ歩くことにする。 ちょっといい天気だった、雲に穴が空いている。