創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

粗末な!

赤レンガの柱の陰だった。赤褐色の長方形が計算されたズレを重ねて高く積み上がる走馬燈。まあ嘘だけど。死んでいないし、死にかけてもいない。

暑さ寒さも彼岸までと何時ぞやの昔には言ったらしいが、本日、8月21日は絶好調に熱く、最高気温は37℃、体感温度に至っては39℃と、とても夏らしい一日であった。俺はこめかみから伝う汗の筋を幾つも感じながら、日陰に潜んでいた。小休止である。これからまた、しばらくは炎天下を歩く必要があった。

スポーツドリンクはあまり好きじゃないのだが、所望するやつがいるから仕方がない。自動販売機で一本買う。疲労には糖分が効くというのは医学的見地からも確かな論説なのだろうと疑ってはいないが、スポーツドリンクというのはその点を満たそうとした結果、自重をハンデに付けてしまったと思しき節がある。

「全部飲んでいいよ。というより飲んでほしい」

「水筒空だったんじゃ?」

「別の買う」

俺がペットボトルごと押し付けると、多少遠慮する素振りを見せて問答したものの、極めてあっさりと自分のものと受け入れた。表情は硬質ながらも、満悦そうなオーラを出して、続きを飲んでいる。

なぜスポーツドリンクに好意的でないのか、と問われたら10人が仕方ないなと頷くであろう答えを返せる。ずばり甘すぎるのだ。甘いので余計に喉が渇く。どれだけ飲めば癒やされるのか不安になる渇きを覚え、それでもスポーツドリンクを口に含む根気はない。

そりゃあスポーツドリンク以外に当面飲み物がないなら飲むが、麦茶や水のほうがどれほど良心的かとこがれずにはいられないだろう。

そんな余談はさておいて。

適当に相槌を打って会話をこなしていたら、知らない誰かの視線を感じる。さっと血の気が引く。油断した。こいつが俺以外には見えないことを失念して、見えない何かと喋っている姿を晒してしまった。腫れ物扱いはもういいんだが。俺も俺で、諦めて電波キャラと見做されるのを受け入れればいい。

それができたら悩まない。

「見られたか」

「ああ」

小さなミスは日常的に発生するもので、俺はこれまでに片手で辛うじて数えられるくらいの回数、不可視の存在と交信している場面を見られていた。

今回も後始末を付けよう。目撃者の記憶を消してしまうのだ。脳を少し弄るので問題視されがちだが、これが案外簡易なのだ。ファンタジックな作用でちょちょいと接続を繋ぎ直せば、記憶の封印は造作もないことらしい。

実は俺自身が記憶操作をしているわけじゃあないことが、気楽さの要因だったりする。やってやれないことはないが、こいつがやりたがるので譲るのだ。腕が鈍るから定期的におさらいしなきゃいけないなどという理由らしいが、どうも言い訳じみている。

「…待て。この人間…」

「知り合いか? お前の悪趣味の発揮かな?」

「見せてやろうか。華麗な手さばきを見て驚け」

俺は小声で遣り取りを交わし、瞠目して憮然といった様子の目撃者へにじり寄る。何かしら危機感を抱いているには違いなかろうが、幸い、逃げ出すことを忘れている。目撃者の目許を覆う形で俺は手を翳し、幾許かの集中を以て対象者の脳に侵入する。

空気の質が、ガラリと清浄になればそこからが脳のテリトリーだ。

「なあ、やり過ぎるなよ」

「…俺の記憶読まないでくれる? ちょっと私怨があって、それを俺自身が昇華できてない時にたまたま現れた不運で起きた、これは事故」

「ははは、これもまた、喜劇だね」

そうだ。喜劇。翳した人差し指を僅かに動かして、その動作に紐付けた行為を執り行う。切断。浮遊した脳細胞が宛のない旅を始める前に、もう一手間。

再接続。人差し指と親指を近付ける微細な筋肉運動で、脳を様々に造り変えられる。必要な記憶の部分に一連の目撃場面の記憶を切り刻んで挟み込む。核心は勿論伏せて、不可解な感情を想起する箇所を当てつける。

困惑して、日常に支障をきたす、そのための工作。

「完了。じゃあ、帰るか」