創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

差す日の中で

無遠慮に飛んできた液体が頬を濡らすので、私はやおら頭を振り、僅かに纏いついた眠気を払う。指で液体を拭うと、それは皮膚表面でさっと乾燥して、染みになった。暗い青色をしている。

「…インク飛ばすなよ」

「あ?」

険悪な眼光だ。こいつは機嫌が悪いとインクを飛ばすし、話し掛ける最初の一句が思い付かないときにインクを飛ばすし、テンションの上がる出来事を披露したくてうずうずするときにインクを飛ばすし…。

苛々しているようだから、刺激を控える努力をする。初めの頃はからかって遊んでみたこともあったのだが、不毛極まると思いやめた。やめたから少しは疲労感も軽減されたはずである。しかしこいつのインクを飛ばすルーティンは特に変わりない。むしろペース自体は上がっている。おちょくられない分の時間、前倒しになっていると考えられる。だる。

「同じこと聞くけど、なんでここに居んの。暇人?」

「火炎系料理は得意じゃないな」

「全然面白くない」

あまつさえ舌打ちされた。私は洗面台で蛇口を捻る。手を洗うためだった。このインクが軽い手洗いごときでは落ちないことは経験済みだが、やらないよりはましだ。完全にインクが落ちるまでは二日かかるところを、6時間分早めるくらいの効果はある。

「ところでさ、屋上って日差し凄いかな。日に当たれって小言言われるんだよね」

蛇口を再び捻って水を止めるまで、返事はなかった。ではその後返事があったのかというと、それもなかった。ハンカチで手を拭いているとき、頬にも同じインク汚れがあることを思い出した。瞬間感情がぼこぼこと揺れて、食ってかかってしまう。飽くまで冗談の口調を意識したが、暴走を完全に抑え込むには鍛錬が足りないようだ。

奴はインク瓶を一瞥して、ぎゅぎゅと縮こまった様子でごめんと言った。俯いた視線が自分の手元より少し奥をうろうろと泳いでいる。作業の続行には躊躇があるらしい。

私がにんまりとして近付くが、奴は気配に気が付かない。私の掌が宙を滑って特定の地点を目指し、その旅が残り僅かで終点を迎えようという瞬間になって、ようやく気取ったそいつは、勢い良く身を振り、そして、透明に溶けた。

「はい、今日も失敗」

危機(というほどのことをしているつもりは無いが)を感じると、そいつは消えてしまう。幽霊みたいなものだと思う。ここの人間は誰一人、奴を認知していないようだから。まさか幻覚症状として、奴の姿が見えているのでもあるまい。その証拠に、さっきの、青いインクが残っている。指に、頬に。

残っている。

 

 

解説︰こいつら両方人間には知覚できない存在なのでは。

推理小説書こうと思って書き出したらこれ推理要素ゼロの、なんだこれ

またBLですか、ああそうですか