創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

ピクニック 露仗

昼飯自作を強要される仗と、ピクニック行く約束していた露(仲良し露仗)
 
仗助は意を決した。受話器から怒涛の罵詈が飛び出すことを覚悟した。ひとつ大きく息を吸い、腹に力を入れた。ダイヤルを回す。
「もしもーし…」
 
露伴邸のチャイムを押す。うちのとは違う音がする。しばらく扉の前で待つ。焦らされている気がした。まあ、いつもこうだし。今日はこちらの落ち度で多少立場が弱くなっている俺だが、戸の向こうから住居立ち入りの許可を下す声が聞こえてこないからと言ってしょげはしない。露伴が居留守を使うのは常套だし、今日に関しては居るとわかっている。しょげはしない、出迎えが無いからといって。
ノブを捻るとすんなり回転する。鍵がかかっていることは滅多になかった。一時期、俺が出向くと必ず施錠されていることがあったが、あれは俺を警戒してやったことだったのだと後から聞いた。戸の留め具ごと破壊して和解したのを覚えている。
声は掛けたが応答もなく、しびれを切らして敷居を跨いだ。露伴の姿は見えない。開放的な造りなので影を探すのに苦労はしない。すぐに背中を見つけた。流しで水を出したり、何かを切るような音が聞こえる。おうい、と呼び掛けてみる。
背中が、ん、と言って作業を止めた。親指を立てた露伴が振り向く。
「間が悪いな。もう少し遅く来れないか」
「来ちまった奴に言うか…」
俺が肩を下げてみると、露伴はからっからの笑いを零した。どうやら彼なりのジョークだったらしいと気が付いたが、邸を後にしてからだった。その時露伴は澄んだ空に浮かんだ雲のぼやけたのをスケッチするのに熱心だったし、俺は芝の中からその姿を観察するので不足なかったから黙っていた
「おい、これ押さえろよ」
厚みが無くなるくらい思い切り体重かけてくれていいぜ、とまな板の正面から退く露伴。親指の先を僅かに咥えて、目で指示を飛ばしてくる。俎上には何か色々の具材を食パン(耳付きだ)二枚に挟んだ通称サンドウィッチが鎮座している。何を挟んであるのかはいまいちわからない。ハムやらレタスやら、それから卵も使ってあるようだが。具が山のように高さを成し、上に被せてあるだけの食パンがずり落ちそうになっている。
「マヨネーズ美味いな」
今まで忘れていた、みたいな顔をして親指の先にガン飛ばしている。ボウルの内壁を見詰め始めた。俺は次のこいつの行動が気になってきたが、他でもないそいつに邪魔された。雪崩れたらわかってるだろうな、とわからない脅しを食らったので静かに食パンを圧縮する。掌に触れた食パンは、レタスから染み出た水分で湿っているように感じた。湿っていたのはパンじゃなくて俺の手だったか? ぐいぐいと力を加えているといつか取り返しのつかない穴が空いてしまいそうだった。そこで尋ねた。穴空くかも。空けるなよ。でもお前ならやりかねないな。箸も持っていくか。サンドウィッチを箸で食うのかあ。面白い絵面になりそうだなァ。
箸も持って行ったのは正解だった。穴は空かなかった(俺の器用のおかげ)のだが、モスバーガーの食べにくさに匹敵するほど具が逃げた。露伴が調子に乗って挟みすぎたのだ。
「重量級のサンドウィッチって豪華っすねー」
「ふん、コンビニには絶対売ってないレアメニューだ」
「サイコーっすね、一回で全種類食える」
「嫌味も大概にしろよ」
そう言って怪訝に眉を顰め、自分の具だくさんサンドに箸を伸ばす。横顔は不愉快を絵に描いたようなしかめっ面だが、これが素直じゃない露伴の照れ隠しなのは知っている。仗助はにこにこしながらサンドウィッチを完食した。美味かった。とても。
 
スケッチブックをめくりながら、露伴が言った。たまには耳付きのサンドウィッチもいいな。俺は頭の下で組んだ手が痺れてきた頃だった。うんと腕を伸ばす。肩や首の皮膚の下層でぽきぽきと鳴るのが聞こえる。この音が骨の隙間の気泡が弾ける音とうんちく垂れたのは露伴だったか。恐らく露伴だな。
「明日も空いてるよな? 早速今日の借りを返してもらおう」
え。何だって?
「えっと…?」
「今日の昼を用意したのは誰だ? 僕だよな。君が、お母さんの言いつけをすっぽかして弁当を作ってもらえなかったことで危うく昼飯抜きになるところだったのをカバーしてやったのは誰だ? 僕だよなァ? 僕が君の、いやバカのお前の恩人なんだよわかるか?」
わかったわかった。すごく恩着せがましいことは。でも。もしかして素直になれないいつものアレが邪魔をしているのかもしれない。連日会いたいと思ってくれているのかもしれない。表情を窺ってみるが、ぶすくれたいつもの顔である。ちぇ。
「…じゃあ今度は俺が作るッスよ」
明日も同じもん食うことになる嫌がらせ。
「耳は切れよな」
あ、これもしかして。
もしかするか?