創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

遊園地

スピーカーから波動する音が耳に刺さって痛い。高低で色を変えて、それはつまり耳を突き刺す角度を変えて、俺の感覚を過度に不躾に刺激した。観覧車の列に並ぶあいつらを横目に、小さな木陰で腰を下ろす。観覧車なんてどうでもいいし、遊園地自体がどうだっていい。今更、この二十歳を越えた今更、俺は遊園地を非日常フィルターを通して見渡す気になれない。
瞼を閉じて太陽を見上げた程度の緩和。日陰の中で、じっとする。地面が揺れている気がする。大勢が踏み鳴らすせいだろうか。間断なく歌うスピーカーで三半規管がやられたか。
なんでここへ付いて来たんだろうと思う。仕方ないな、いつもの癖だ。別にここへ来て日陰でぐったりしている理由を見つけたいわけじゃない。そんなものの用意だけで気を取り直して遊園地を楽しもう、にっこり、となるほどお気楽じゃないのだ。じゃ、なくなったのだ。なんでここへ来たんだろう、頭がくらくらするような場所へ。
帰りたい。
 
暇そうに見えたのだろう。観覧車待ちをしているはずのOが傍らにいて、次はジェットコースターに乗りたいから並んでくれと言いつける。ジェットコースターの前には観覧車の二倍の長さの待ち人。待ち人来たり、とおみくじの有名フレーズが突然煙幕から湧く。脳内で揺蕩う。はいはい、待ち人来たるわ。俺が待ち人。ジェットコースターが、…。? ジェットコースターが待ち人か。
 
自分は乗らないアトラクションの順番待ち、これはパシリの雛形だな。つまらない。俺は絶賛人生を無駄遣いしています。同じ待つでも辿り着く先に俺の士気が上がるようななにかがあるとか、俺がここで長蛇に従うことで俺の名誉が称えられるとか、そういうのが人生をぱりぱりのシーツみたいに格好良くするんじゃないのか。
ぱりぱりのシーツねえ。だる。
 
ジェットコースターを引き受けたときに総員の飲み物が入った鞄を持たされ、脱水で倒れないようにこまめに水分補給しろと言われた。荷物持ちまでやっているわけだ。俺は深くなりがちな呼吸をひとつ、その区切りに麦茶を流し込む。冷蔵庫で冷えたそれを思い出して、また帰りたくなる。
 
途中でKが茶々を入れに来た。いや、喉の渇きを癒やしに来たのだから、茶を口に入れに来たのか。なんだそれ。下らねえ洒落を挟むな。
Kは暑い日の飲料は美味いと知ったあの顔で、俺にジェットコースターに乗らないのかと尋ねた。観覧車くらいしか乗らないんだろう、代わってやるから乗ってこい、みたいなことも言った。俺はジェットコースターを全うする気でいた。他人に甘言を食らったくらいでは揺るがなかった。
「乗ってもいい」
指を立てて、頭上の鉄パイプを示す。乗る気はなかった。今、乗ってもいい気になった。
Kは暫く不思議そうな顔をしていた。俺の言葉が足りなかったせいだろう。しかし、俺がジェットコースターのことを指しているとわかると、うんと言って頷いた。俺は人の目を見るのが苦手だからそのときもKの顔は見ていないが、(ジェットコースターに)乗れるんだなと感心した風の言葉が聞こえたから、間抜けな驚き面をしていたのかもしれない。
Kは俺の横に付いて、この長蛇の終着点に体を向ける。三歩進む。
「お前観覧車乗らないの」
「絶対乗りたいわけじゃないな」