創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

登山

何を以て病気と為すのか、哲学せずにおれなかった。ほんの数分前まで奇声にほど近い呪詛を吐いていたAの、乱れた頭髪を見遣る。寝癖なのか今し方暴れて跳ねたのか、髪が乱れている原因が不明である。毛量が多い。地毛の重なりで輪郭がわずかに波打っている。口許が動いている。無声だが、意志を表すときの唇の動きであった。横顔に付いた唇を眺める。
「ちっ、終わりだな」
読唇術は持っていないので早々に唇から視線を外していた。痩せぎすな身体を包むデパートのジャージに目を滑らせ、床に落ちた視線を持ち上げたあと、どこともない空間を見ている時だった。この部屋には花瓶がないな、と考えていた気がする。どんな植物を活けるのが適しているのか、一体なにに適しているのかと考えていた。
「富士山行くか」
高山植物を彷彿とした。たまに研究者の真似事を始めるAのことだから、登山が趣味じゃないとか、体力が枯渇しているとか、ここからは高速道路で数時間掛かるとか、そういった諸事情というやつを一切合切無視して決断を下すことに違和はなかった。何を採りにいくのかと尋ねた。植物採取だと思い込んだのは確かにこちらの早合点ではあった。Aは理解しかねる時に見せる、強く眉根をよせたしかめ面で私を見た。睨んで来るが、目線は合わない。Aはいつも人の目を見ない。顔の方、を見ているに過ぎなかった。その目線が私を透過し、目ぼしい何かを探すように彷徨う。私はそれを追いかけて、目当てのものを突き止めようとした。
 
「新幹線がいいかなって思ったけど、遠出になるからやめる。この辺でもいいか」
徒歩五分の公園に来ていた。周囲より小高くなっているので多少の見通しが利く。今度も何を探しているのかわからないが、周りは住宅ばかりである。Aはロープと呼ぶナイロンテープを手中で弄ぶ。端から五十センチ辺りまでが、色々に変形させられて老衰している。
「虫を捕まえるつもりってこと?」
「はは…それは微笑ましいね」
違うんだな。昆虫採集ではないらしいが、まだわからない。Aも進んで答えを言わないし、尋ねてもはぐらかされる予感があった。出方を見失って、黙っていた。不意に手持ち無沙汰を感じ、お茶を一口含みたい欲求に駆られるも、実際に手ぶらだった。喉が急激に渇きを訴える。
「喉渇いた」
「ん」
財布が出てきた。Aが自分の財布ごと人に渡すわけがない。小銭すら出し惜しみをするのに。直感的に異状を察知するが、なにか変だ、という以上のことが見えてこない。首を傾げつつ、自販機に足を運ぶ。
 
 
やれ、インターネットがねえんだよ。行くよな、そうしたら。え、インターネットの強制断食のおかげで小説を書く時間が取れたじゃねえかだとやかましい喧しいよ必要に応じて確保できるんだよ私は…。