創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

万年筆探す小説

こいつは、お待たせなどと気の利いた風な台詞を発さない人間性なのだが、私は毎度失念してしまう。へらへらと頭を傾げて、お待たせの代わりにしたらしい。半開きの口からはきっと呼吸音しか聞こえない。

呼び出されたので合流したのは午後3時で、私は一仕事終えて迎えた今だからじっとりと疲れが回っている。病院帰りだという相手、仮にアサダとしよう、が口実にしたのはアサダ自身が万年筆を買いたいというものだった。今日はこの後息抜きをしよう、部屋でリラックスして過ごすのだと決定していた私には寝耳に水のような展開で、当然、一人で行ってくれと思った。

なのになぜ待ち合わせ場所に来ているのか。

アイスを奢るよと言われたのではない。お揃いの万年筆を探そうぜとゾッとすることを囁かれたのでもない。どうも、私はアサダの存在に弱かった。ひれ伏すがごとく下等に己を据えている。ほいほいと表に出て、駅にて待ち合わせること十数分、家でペットボトルに汲んできた麦茶をまた一口嚥下したところでアサダが来た。

挨拶でよく取られる手の平を振る合図もなければ言葉もない、アサダは自分の振る舞いが今度の事柄のスタートであることにちっとも思い至らないようだった。気まずそうな顔をしない。私は既に耐えられない。ペットボトルのキャップに手を掛ける。

 

駅から伸びる歩道橋を渡れば、直行でアリオへ行ける。巨人サイズの自動ドアをくぐり、うっとりするほど冷たい風を全身に浴びながら、私はアサダに問うた。

「ここに万年筆売ってんの」

「さあ」

知らないねと言わんばかりに首を振り、あまつさえ七割以上の確率でここには置いてないだろうと答える。私がここで踵を返す選択も十分あり得たはずだし、そうしておけば、ぱっとしない一日にはなるが、その時点以上疲れることは無かっただろうと断言できる。予想は付いていると浅慮するが、私は帰らなかった。アリオの涼しさに浸っていてタイミングを見失ったことにしておこう。

 

文具を扱う店舗はひとつだけだった。多角形の中にアフリカ国境みたいな縦横の直線が引かれた全体地図を見、真新しいデジタル案内機で店舗の位置を示してもらい、目的地を特定する。

「文具屋じゃねーじゃん」

「更に期待薄」

「…帰りたい…」

唯一、文具を売っていると地図に明記されていたのが、宮脇書店だった。本屋である。書籍がメインの売り場である。置いてある文具の想像が付いてしまう。

 

案の定、万年筆は無かった。アサダはその事実を突きつけられる前後で特に顔色を変えることはなく、それは私も同様であった。私の顔色は始終疲労感に塗れていた。

「……」

常が気体のような朧な雰囲気のAが、珍しくこの世界に確たる実体を現して私を見ている。全く目が合うことはないが、二の腕に視線を感じる。何か言いたいらしい。喋るよう促すと、アサダは暫く悩んだ。間ににやにやした不始末な表情が紛れた気がした。これは決して勘違いではなかった。アサダは強く目を瞑ったまま数歩分歩いて漸く心に決めたらしく、私を振り向く。

「えっと、おつかれさま…でした」

今日一イラッとしたよ、全く。