2022/9/19
一松は地上を見下ろしていた。切れ切れの雲が時折覗かせる、生き物を観察するためだった。一松は神の地位にいる。だからカメラなどなくとも細かい物や事が見える。顕微鏡やルーペも必要ない。
皆色々に異なった格好をしているが、揃って気取る点は一致した。全員が目蓋に二本指を当てて星を飛ばす仕草をする。誰に向けてやっているんだ、一松は顔をしかめた。
今日もわらわらと蠢いている。秋晴れが続き、気障に磨きがかかる。より目に付く。太眉をキリリと上げる妙な顔。俺の方に顔を向けて、笑っている? 一松は後ろを確認した。太陽があった。
一松は神と同じことができるから、退屈紛れに指を混ぜると大気がくるくると周回する。南太平洋の辺りだった。かき混ぜられた大気が、海の上で渦を巻き、大きな勢力を持って動き始めた。じわりじわり、大陸のある方角を滑る。
その渦が狙う列島に住み着いた大量のカラ松は動乱した。日一刻と落ち着きを失った。多くは現実から逃れ、歌いだし舞いだした。エアマイクを握りしめ、決死の形相で声を張り上げる。
カラ松はそれを、タイフーンと呼んだ。
締め切った窓の奥から滲み入る突風の暴れる気配を聞き取ると、度々音の方を見る。そして硬い表情で手元に視線を戻す。俺がじっと見ているのに気が付いたらしい。咄嗟に笑顔を繕った。
「今度のは、強いらしいな」
「まあね」
俺はカラ松に背を向けて布団を被った。
明日はあっけらかんと晴れますように。