創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

自分事、ひとごと(カラ一)

今日複数名と同じ空間で数時間過ごしたことで行動を制限された結果、精神的ストレスが問題を起こし、犯罪者予備軍チックなものが生み出されることになりました。それが以下の文。私が書きたいのはこういうんじゃないんだけど、書いたものは書いたものに違いないので載せておきます。

――

トド松は思った。ふたつ上の兄である一松は、あまりにも無用心である、と。

彼は気付いているのだろうか、上から二番目の兄が常に異様な気配を放って彼のことを目で追いかけていることを。それは最早見る、を越えて見張るとか睨めつけるレベルに達していることに、気が付いているのだろうか。
 
雨の日が続き、夏にしては寒くて過ごしやすい。なにやら台風が接近しているとかで、学生時代は警報が出まいかとわくわくして床に就いたものだと思い出した。トド松は感慨に耽りながら兄たちに付いていく。銭湯への行きだった。
ぱらぱらと細かな雨が降り続いており、面倒臭がって傘もレインコートも準備してこなかったおそ松が傘に割り込んでくる。なんとも我が儘、横暴な長男を入れたくなく、傘を傾けて自分だけがその恩恵に預かれるように工夫する。自分勝手な長男はブー垂れた。
すっかり日の暮れた街路は、空を覆う灰色に染まり閑散とした雰囲気だ。しかし六つ子が通りかかれば、そんな静謐さに似た趣きなど一瞬にして消し飛んでしまうもので、がちゃがちゃと落ち着きなくなる。良く言えば、賑やかなのだ。トド松は呆れたような顔をして、雨の降る頭上を見遣った。
長男は一松を傘に入れているカラ松にすげなく断られ、また何か文句やら挑発やら下らないことを捲し立てているところだった。
 
先払いで入湯許可を得て、一斉に脱衣に取り掛かったときだった。トド松はふと思い出した。横目で見てしまって、自分は当事者ではないのにも関わらず、背筋が強張った。やはりカラ松は一松の一挙一投足をガン見しているのだが、それだけではない。この後、堪らなくここへ来たことを後悔する事案が発生することを思い出した。歴史を繰り返してはならない。カラ松のあの様子だと、絶対今回も事に及ぶ。なぜ被害(?)を受けている一松は呑気に服を脱いでいるのか。トド松は舌打ちしたい一心であった。
わざとトロトロして、あたかも服が脱げない風を演じて、普段から動きがそれほど俊敏でない(時たま舌を巻くようなスピードプレイを見せるが)一松とふたり脱衣場に残った。トド松はすぐさまひそひそと用件を伝える。どうせ遠回しに言っても理解されないだろうから直接的に言ってやりたかったが、背後にカラ松、とかいうホラー展開が嫌すぎるので、めちゃくちゃ言葉を吟味した。
「一松兄さん、服が狙われてるから気を付けてね。いや服だけじゃないと思うけど、出来れば一松兄さんの要素?とりあえず体臭からさ、消した方がいい」
「...俺に消えてくれと?」
失敗した。
違う...。トド松は内心で頭を抱えた。卑屈を全面に出すモードに入ってしまった一松は、ぼそぼそと呪文を唱えているように見えるがしかし、お察しの通り呟いているのはねじ曲がった自己判断にのみ基づいた自己消滅肯定解釈である。
トド松は考えた。すぐに答えは出た。どうせ自分は当事者ではないのだから、という一番大きな前提を忘れていた。恐怖がもたらす感覚の狂いは大したものだ。間違って自分事にするところだった。
「やっぱいいや。一松兄さんが一松兄さんであることが最重要だからね。カラ松兄さんのこと、よろしく!」
「え...なんでクソ松が出てくんの...」
トド松の足取りは軽い。鼻歌だって歌ってしまいそうだ。すりガラスの引き戸を元気に開け放てば、白い蒸気が顔を撫でる。
案の定、一松がやって来たのを確認して、カラ松は先にひとりだけ出ていった。見え透いた嘘を吐いて、平時を装ったつもりでいるのも見え見えで、でも僕には関係ない。幻滅どころか恐怖を感じさせる性癖があったとしても動じることはない。ていうか、これは寧ろラッキーだろう。弱みとして使える。
 
気分上々、銭湯でスッキリしたし、ついでに雨も上がった。僕の気分の良さを邪魔できる者はどこにも居ない。畳んだ傘を肩に乗せ、悠々と街路を闊歩する。途中、何の用か不明だが話し掛けてきた長男は傘で吹っ飛ばし、何時の日か怯えていた狂気の次男も今となっては恐るるに足らない対象だと微笑むことができる。元々ああいうものだから。普通普通。
ほら、僕らが通るとどこもかしこもうるさくなる。普通でしょ?