創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

懐古(カラー)

ガードレールの脇を歩く。雨粒の跡が残り黒く汚れたガードレールの向こうには川が流れている。

「じゃんけんおばさんっていたよな」

「目が合った小学生にバトルを挑むとかいう…」

それはポケモンだろ、とカラ松が笑い声を上げる。一松も釣られて僅かに口角を上げる。

小学生の頃の川はこんな色だったろうか。水量はこの程度だったろうか。淀み、細っていると感じるのは気のせいか。

「で、何。探し出して勝負仕掛けるわけ?」

「リベンジマッチか…今度はこのハンドにウィナーズメロディを、掴める…気がする」

カラ松がなにか言っている。音を手に取るなんて訳の分からないことを言っているので、安定のスルー。川面に羽の黒い鳥が泳ぐのが見える。達者な泳ぎを見ていると、もしやこいつは魚なのではと疑いが生じる。背中の広い魚、なのか?

「それにしても、もう小学生時代が一昔も前のことだ。懐かしくて、のすたるなんとか、だぜ…」

ノスタルジック、だろ。わざわざ指摘してやるのが面倒で黙っていたが、毎度毎度、のすたるなんとかって言う姿を見るのは見苦しいと想像する。訂正してやろうかな、とちらり横顔を伺い見ると、目を閉じてにやにやしている。何かに耽っているらしい。歩きながら脳裏の映像に集中してしまって、足許が疎かになるんじゃないかと考えたら、狙ったが如くアスファルトの舗装の穴に蹴躓いた。ざまぁ、なんて言葉が脳内で踊る。耐えきれなくて失笑していると、カラ松は徐に拳を出してきた。

「じゃんけん、しないか」

「……古き良き日を思い返して?」

「イグザクトリィ」

 

小学生の頃、生徒の間で都市伝説らしき噂があった。学校に馴染む頃には当然のように知っていたから、きっと代々受け継がれた伝説だったのだと思う。

それは、じゃんけんおばさんに負けると呪われるとかなんとか言う、荒唐無稽なものだった。呪われると一口に言ったとして、呪いの程度も被害者の有無も一切不明。今思えば完全に作り話だとして一蹴してしまえるような、突飛な都市伝説だった。

ある日、一松が呪いに掛かったと泣きながら帰ってきたことがある。俺もまだ幼かったから、呪われたらいざ知らず、どうすればいいのかわからなくて家を飛び出した。そしてじゃんけんを挑み、見事に負けた。これで俺も呪われたと夢うつつに家路を辿り、呆然と一松に報告したのを思い出す。一松はショックを受けたのを隠さないで、開いていた漢字練習帳を閉じて俺の頭をはたいた。涙声でカラ松が死ぬ…と繰り返していたのが約十年前。

「…ハイ、負けたー」

若干後出しだったのに、ものの見事にパーで負けた一松は、勝敗を気にも留めぬ様子で前を向いた。手はすぐにパーカのポケットに収まる。一松は今日も猫背で歩いている。

「昔は、泣いていたのにな」

「は? お前だろ、死にそうな顔して飛び出したくせに」

そうだったか?と、おどけると、一松はだるそうに、そうだと言う。何となく胸の真ん中が暖かくなって、微笑む。それから、思い出が現在に収束して、どうしようもない呪いに気付く。今度は苦笑してしまう。

「俺ら全員呪われてるな、ちゃんと」

確かめるように目配せすれば、どうやら一松も同じことを思っているらしい。悪いことを企んでいるときの顔で口角を吊り上げて、フと笑った。

「─さて、帰るか。呪われしニートの巣窟に」

じゃんけんに負けた全員が漏れなく呪いを掛けられ、揃ってニートに墜ちている現状。全く、じゃんけんおばさんも酷いことをしてくれる。