創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

今日のラッキーカラー(色松)

「双子座のあなたの今日のラッキーカラーは―」
 
テレビ画面に映るのは長い髪を真っ直ぐ伸ばした女性。毛が茶色なのは恐らく染めているからだろう。似合っていると思う。いいセンスをしているぜ、カラ松ガール。
「へぇ、紫かぁ」
隣でトド松が言う。朝のニュース番組に、おまけみたいに付いてくる星座ごとの今日の運勢コーナー。たまたま目に入り、見ている。俺は日々刻々と変わる占いの内容なんかに行動を左右される男ではないぜ。なにせ毎日強運を味方につけてこの世界に君臨しているのだから...。
「今から出るの?」
「ああ、善は急げと言うだろう」
「なんの善だよ」
「俺が訪れるという事実がすなわち善、世界にハッピーを与えてくるぜ!」
トド松の返事はなかった。まだ午前中だからな、眠いのだろう。安眠を妨害してはよくない。俺は細心の注意を払って、抜足で居間を出る。デキる俺は既にパーフェクトファッションに身を包んでいるので、このまま家を出発する。
待ってろ、俺のラッキーカラー。
 
まずはどこに行こうかと思案する。何の宛もなく出てきたから、ひとまず人の多い通りを選んで歩く。情報量が多ければ、それだけ紫に出会える確率も上がるというもの。俺が歩くと周囲の人間からざわめきが立つ。やはり、ハッピーを与えるのはこの俺。もっとどよめいていいんだぜ、シャイなカラ松ガールアンドボーイたちよ。
サングラスの下からふと見上げると、今日は快晴だった。いい色をしている。それに伴って日差しの強さもなかなかのものだが、ノープロブレム。噴き出す汗、照りつける陽光、カモン。
 
「ヘイ、チョロまぁつ」
「...」
何か急ぎの用事でもあるのだろうか、チョロ松はそそくさと大量の紙袋を抱えて歩き出す。そんなにせかせかと慌ただしいと、ささやかなハッピーを見落とすぜ。俺はダサいチェックのシャツを身に纏うチョロ松の横に付く。緑か...残念だ。
「お前今失礼なこと考えたろ」
「ん~?そんなことはないぜ、今日もセンスを感じられない装いでよくも外に出られるなぁと感心していたところだ」
「それだよクソイタファッション松が!」
「ところでひとつ聞きたいことがあるんだが」
「...この流れで質問できると判断したお前は本当にやばい」
チョロ松は横でガタガタ言ってるが、俺はそんなちっぽけなことに心を惑わされない強い信条を持っている。フッ...、いつ何時もブレない俺、カッコよすぎるぜ。
さて、本題の今日のラッキーカラーについて、紫色のアイテムはどこで俺を待っているのかと尋ねると、チョロ松はしばらく唸った。結構な長考だった。紫のものなんてそうそう無いのだなと再実感した。
やっと考え終えたらしいチョロ松が言うことには、ごめん思い付かない、ということだ。結局収穫は無かったが、しっかり考えてくれたということで、謝辞を述べて再び紫を探しに歩き出す。太陽は高く、真上から俺を照らしている。
「たぶん一松が紫じゃんって言うと、一松怒るよね...」
小さくなる革ジャンを見送りつつ、チョロ松は眉を下げた。
 
公園まで歩いたとき、ジャングルジムに上る十四松の姿を捉えた。颯爽と現れた俺が十四松を見上げて呼べば、俺に気付いた十四松はジャングルジムのてっぺんに仁王立ちして両手を振った。俺は人差し指と中指を立てて右手を上げ、それに応じる。
「カラ松にーさんも、ジャングルジムで遊ぶー!?」
「いや、今は別の用事があるんだ」
「ここジャングルだから、ほんとすげーよ!アマゾンアマゾン!」
「十四松、ひとつ尋ねたいんだが...」
「地べたにいると、ピラニアに食われるよー!」
ジャングルジムは足場が少なくてバランスを取りづらいだろうに、十四松はまるで地上に立っているかのように安定したスタンディングを見せていた。自由に跳ね回っているが、転落する気配は無し。ついでに俺の声が聞こえている気配も無いが、この距離だから仕方がないだろう。もしかすると、あの安定感を保つために強靭な集中力が求められるから耳が疎かになっているとも考えられる。
「ハヴァナイスデイ、十四松」
ピン、とウインクを飛ばしてみたが、ジャングルジムのてっぺんにいる十四松のところに届いたか多少不安が残る。ウインクの飛距離を伸ばす訓練をした方がいいかもしれない。俺は公園を後にした。歩き通しで喉が潤いを求め始めた。
 
通りを飾るように店が並んでいる。手持ちの金では心許ないが、水分補給のチャンスを伺い、それを気付かれないようスタイリッシュに闊歩している。公園の水呑場でぬるい水でも飲んでおけばと思わないでもなかったが、俺は妥協をしない男、今欲しているのは冷たい飲み物だ。...もちろん、紫のアイテムを迎えに行くことだって忘れちゃいないぜ。
「おー!カラ松ぅ」
おそ松だ。こういう声の時はまずい。何か奢らされるパターンだ。ポケットの中の所持金を探る。100円なんて持ってたら一瞬でやつの手の内だ。...、4枚。触感からして、一円玉だろう。よし、これならたかられ様がない。
「...どうした、ブラザー」
「ね、喉渇かない?」
「ああ、渇いてないことはない」
俺が歩き出すと、おそ松はそれを妨害したがっているとしか思えない動きでうろうろと付いてきた。口では何も言ってこないが、目がうるさい。生憎だが、金が無いからどうしようもない。公園まで行って水呑場を使えと提案すれば、確実にお前が行って汲んでこいと命令されるのがオチなので、何も言わない。どんな解決策も、おそ松自身の労力はゼロで遂行しようとするから、何も提案してはいけない。
「...ひとつ聞いてもいいか?」
「あ?俺一円も出さねーよ?」
「今日のラッキーカラーが紫なんだが、紫のアイテムは一体どこで俺を待ち続けているのだろうか」
「ラッキーカラー?紫?そんなの...」
「知ってるのか!?紫の居所を」
「居所言うな。骨折れる」
おそ松は歩行も覚束無くなるほどの笑いに飲まれたらしく、暴走するシャワーみたいな声を上げた。だんだん周囲の注目を集めるので、笑い転げるおそ松から若干距離を取る。なかなか笑い止まない姿を見ていると、背筋が冷える思いまでやってきた。しれっとずらかろうかとタイミングを探したが、逃げる前におそ松が再起した。周りの目線を一挙に担い、こちらに歩み寄ってくる。そして、
「紫なんてのはスーパーに行きゃあるんだよ。ブドウとかレーズンとかな」
「おそ松...」
いまだにじろじろと視線の集中砲火を浴び、背中が熱いなあと思うおそ松は、意地悪くにやけそうになる口角を必死で真顔っぽく保つ。ブドウとレーズンって原材料同じじゃね?などと考えると思わず吹き出してしまいそうになる。紫って家に居るじゃん、と答えたら非常につまらない。まぁ、家の紫がどんな反応するか眺めるのもアリだが、目の前のバカもその目で紫を確認すれば気付くだろう。家に帰れば100%発生するイベントになるはずだから、ここは余計な手出しをして、行動に乱気流入れてやろう。
「ナイス、アイデア...だ!」
「ブフォッ」
やる気に満ちた目をして、カラ松はスーパーのある方へ走っていった。マジでバカなやつだな、ちょっと将来が心配になってきた。十万で壺買わされたり、ねずみ講に引っ掛かったりしないだろうか。
...めちゃくちゃ引っ掛かりそう。
まぁでも、俺の金じゃねぇしな。カラ松が被害に遭うだけならいいや。面白いだけだし。おそ松は両手をズボンのポケットに突っ込んで、だらだらと家へ向かい、歩いた。
 
「ただいま帰ったぜ、俺が!」
「...おかえりー」
「聞いてくれ、さっきサンセットが紫色で...」
ドタドタと何時にも増してやかましく居間に顔を見せたのはカラ松で、冷房を効かせたその部屋でくつろいでいた5人は内心で、今日のカラ松テンション高いな...と思ったが、全員何も言わなかったし、今していることをやめてカラ松の方を見ることもしなかった。
「早く襖閉めて。部屋がぬるくなる」
キッと睨むように言い付けた一松に、カラ松は一瞬怯んだ。大人しく戸を閉めて部屋に入る。と、そこで気が付いた。
一松が紫色の服を着ている。
そうだ、イメージカラーが紫の、一松が家には居た。それなのに一日外を探し通したのだ。こんなに近くに居たのに。
どこかのJポップに、大切なものはすぐそばにある、という歌詞があった気がするが、まさにその通りだった。今日俺は大事なことを学習したぜ。
「俺のハピネス!!」
一松目掛けて飛ぶ。両腕の、見つけた紫を抱き締める準備は万端だ。伸ばした手が一松の耳の横を通過したとき、俺の視界は急上昇した。
「気持ち悪ぃ、一生辛酸嘗めてろ!」
 
 
 
気が付くとブラザーたちは布団で寝ていて、俺が目を覚ました場所には居間に通じる穴が開いていた。