創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

呪いかけてくるカラ松(色松)

2021年8月10日のpixivのお題、「手でハート」

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家は静まり返っていた。面々は出払ったらしい。朝食のあと、何もすることがなかったので2階で一眠りしていれば、この通り、更なる退屈へと直面した。まだ正午まで時間があり、空腹を感じてはいないので、適当に食事を摂るのは選択肢から除外。まぁ、腹減ってても面倒くせぇから料理なんてしないが。ろくなもん出来ねぇし。大抵焦げるもんな...。そんなことを思いながら階下に降りる。

どうせ誰も居ないだろうと思っていたが、居間の襖が閉じている。冷房を効かせて、誰か居座っている証拠だ。テレビの音はしない。会話をしている様子もない。全く、ひとりしか居ない部屋で冷房なんてもの使ったら後で松代がうるさいのに。バカなやつ。
しかし、襖一枚隔てた向こうに、夏だからこそわかる冷風の有難みを具現した空間が待っている。いや、俺を待っているわけがないが、素晴らしすぎる快適空間なんて天国じみたものが俺を待っているわけがないんだが、入室。襖を少しずらしただけで冷風が漏れ出す。誰だか知らねぇが、冷房をガンガンに効かせてやがる。温度差で体ぶっ壊れるぞ。
「てめぇかよ真正のバカは」
カラ松だった。ちゃぶ台に貼り付いて姿勢良く着席しているが、他に誰も居ないから目的が見えない。誰に向けてカッコつけてんだ?
冷房の設定温度を5度程上げる。元の設定温度が低すぎるんだよ。俺が地球環境に優しくしようとしてる派閥に属してるからではない。特にそのような心がけはしていない。冷房がリモコンからの指示を聞き、急ブレーキでも踏んだように風の勢いを弱めた。居間が静まる。気不味い。
「待ってたぜ、一松...」
カラ松はちゃぶ台を見詰めながら言った。あたかも台本通りといった言い方だった。俺が冷房を弄ったことなど見えていないかのようだ。
「あ?なに」
なにやら面倒そうな事が始まる予感がしたが、究極的に面倒な事に発展したらすぐにこいつの意識を飛ばせばいい。それが出来なければ逃げる。予防線は張ってある。
今は暇を持て余しており、することがマジで無いので、仕方なくこいつを利用して時間潰しすることにする。
一松がちゃぶ台からやや離れた場所に腰を下ろし、膝を抱える。一定のリズムで向きを変える風が後頭部から背中に掛けて撫でていった。
こいつは今から何を始めるんだ、と前髪の隙間から視線を向ける。カラ松はその視線を一身に受けて、舞台は整った、とでも言いそうな顔をして、くっと口角を上げた。そして両目を閉じ、無駄に大振りな動きで両手を前に伸ばした。
「トゥ、一松」
低音ボイスで確実にキメているようだが、どこからも黄色い歓声は上がらない。一松の場合、肌寒さすら感じた。さっき冷房の温度上げたのに。電源切ればよかったか。無意識に目に力が入り、視界が細くなる。俺の顔には、なんなんだこいつ、と書いてあるに違いない。
と、カラ松が異様な目力を放ってこっちを見出した。狂気を感じる。宙に伸ばされていた両手が高速で動き、カラ松の顔の前でハートの形を作っていた。ハートの中からカラ松の目が俺をばっちり捕らえている。
一松は恐ろしくなって何も言えなかった。ハート型を作っている小指がピンと立っていることで、より一層恐怖を掻き立てられた。純粋に怖かった。こっち見んな。
「届け、俺の...ラヴ...!」
「......」
部屋が寒い。カラ松の暑苦しいはずの目線すら寒気を誘う。なにこれ。今の季節なんだっけ。冬なの?冬眠したい。
尚もハートの輪っかを通して一松を見続けるカラ松。台詞は言い切ったぜ、みたいな満足げな顔をして、居心地の悪さなど微塵も感じていないらしい。このクソ鈍感が。こんな妙な空気作った責任取れよ。
一松は動けないでいた。筋肉の動かし方がわからなくなっていた。例えば大勢の前でスピーチなんかをすると、あまりの緊張で声が出なくなるような、それによく似た感覚だった。...あ、もしかして俺緊張してんのか。恐怖で。なるほど。
全くこの場の解決になっていない。
誰か助けろ。金縛りに遭ったみたいになってんだよ。とっととこのイカレキザをぶっ飛ばして暖を取りたいが、生憎体が動かない。こいつの魔術こわい。
「...というのをな、ブラザーたちに愛を伝えるためにやろうかと」
「ただいまー!!」
ーッスルハッスル、と爆音が耳に突き刺さる。十四松だな。おかげで金縛りが和らいだ。カラ松が何か言っていた気がするが、よく聞こえなかったことにしよう。どうせろくなことにはならない。
廊下が抜けそうなほど大きな足音を立てて、十四松が居間に飛び込んでくる。襖を飛んでもなく勢い付けて開けると同時に、持っていたバットをポイと手放した。十四松の感覚では「ポイ」だろうが、常人からすればそれは「ビュン」だった。バットは畳に対して斜めに突き刺さった。
俺は土手っ腹に穴が開くかとひやひやした。たぶんカラ松も脳味噌空っぽなりに多少はビビった。しかしバカなこいつのこと、帰ってきた十四松に向かって、呪いをかけようと手を上げた。ぞわっと鳥肌が立つのがわかる。あれは駄目だ。
「届け、おグファ...ッ」
間一髪、両手を構えて気色悪いハートを作るためにがら空きになった脇を掴んで力任せにぶん投げた。赤塚先生の額が落っこちて来そうだったが、彼はなんとか耐えたらしい。さすがだ。
カラ松は襖に頭から突っ込み、水を入れたビニールに刺した鉛筆になった。あれは鉛筆を引っこ抜かない限り水が零れることはないから、カラ松を引っこ抜かない限り居間から涼しい空気が抜けることもない。一仕事終えてほっと息を吐く。十四松がガン見している。
「......」
「こっ、これはお前に不幸が被らないように予防したんだよ!正当防衛!」
「...そっかー」
理解したのか判然としないが、地軸みたいに首を傾けた十四松は、ありがとう一松にーさん、と言った。ちょっと上の空っぽかったが、本当にわかったのだろうか?
まぁいい、カラ松を排除したことで面倒事になる流れは回避した。あとはこの冷えた部屋でだらだらして、誰か料理出来るやつが昼飯作ってくれるのを待つだけ。十四松は冷房の下に立って、その風を全部浴びている。俺が扇風機も持っていって十四松に当たるようにしてやれば、こいつはあはー、と多分喜んでいる声を出した。
「あぁー!涼しい」
生き返るわー、と汚い声で入ってきたのはトド松らしかった。完全にキャラが崩壊している。畳に倒れ込んで肩掛け鞄(こう言うとトド松は怒るが、別名を知らない)を投げ出してゴロゴロし始めた。ひたすらあちーだの喉渇いたーだのシャワー浴びたいだのと呻き、しばらくして火照りが収まったらしいトド松が鉛筆に気付いた。
「うわ...襖って高いよね...?」
派手に穴開いてまんなーみたいな表情で、襖にぶっ刺さるカラ松を見ている。俺は黙っていた。説明する事情がないからだ。こんなん何の解説も要らないでしょ。
代わりに、頼んでもいないのに十四松が喋った。風の申し子みたいになりながら。冷房と扇風機の起こす風で、前髪がぱたぱたしていてヒーローの決め台詞さながらの迫力だった
「カラ松にーさん、僕に浮気しようとした!それで一松にーさんが怒った!」
「は、...はぁ!?」
いや違いますけど!?何言ってんだ十四松!浮気ってなんだよ、誰が?浮気ってのがどういう関係性の場合に効力発揮する単語なのか知ってますかおい。
「あーはいはい」
「なんで腑に落ちてんのお前!?」
勝手に変な物語できてんだけど。現実に存在してる俺そっちのけの意味不明文脈のストーリー展開されてるんですが、誰か説明しろ。
...とりあえずカラ松が息を吹き返さないように、一発入れておこう。