創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

ひまつぶし(色松)

簡単にカラ一か一カラになり得る色松。一応色松のつもりで書いたんだ。
おそ松兄さん視点多いです。
――
ここ数日、一松の様子が普段と違う。

初めにそれを俺に知らせたのは十四松だった。ひっそりと耳打ちで伝えられたから、十四松がこの件を重大に捉えていることがわかった。大口を開けて能天気を晒しているが、内心に俺には見えない形で負の感情が荒れ狂っているのかもしれない。長男さまがなんとかするから安心しろと言っておく。どんと胸を叩いて、おまけにウインクのサービスまで付けて見せると、十四松は少しほっとしたように相好を崩し、相変わらずバカみたいに開いた口でロケットみたいに轟音まがいの叫びを上げて家から飛び出していった。野球でもしに行ったらしい。
塞いでいた両耳を離す。と、例の一松を発見。今しがた話題に上った張本人だし、言われてみれば少し違和感のある節が無かったわけではなさそうな...?どうだろう、この家の住人はどいつもこいつも狂ってるからなあ。
「おはよう、いちまっちゃん」
「もう昼すぎてるけど」
「俺さっきまで昼寝してたのー!」
嘘だけど。居間でごろごろしていたのは間違いないが、今日は寝落ちしていないから昼寝は未達成だ。眠い。あくびが出た。一松は冷蔵庫に目ぼしいものが無いことを確認したらしく、だるそうに扉を閉めた。すうと冷たい風が閉め出される。まじで夏はこの風目当てで冷蔵庫とか冷凍庫何回も開け閉めしてる。ホント救い。夏の救世主。冷風最高。居間へ行ったらしい一松の背中を見送って、俺は冷蔵庫の扉に手をかけた。中のものには興味無い。
 
果たして、件の一松の異変だが、部屋の隅に居るのを夕飯まで見張っていてこれと言う点は見つからなかった。大好きな猫に会いに行かなかったが、それは季節柄怠けてのことらしく、回答への不自然さは見受けられなかった。
...と、真面目ぶるのも格好いいが、とりあえず成果無し。十四松は何を見たんだろうな...俺の洞察では足りない場合だってあるだろうし、この件はおいおい解決すればいいだろう。迷宮入りは数知れず、今回だって解決のための手筈や方策は全く立っていない。
「ま、なるようになるさ!」
目の前に食うもんがあるのだから食べないわけにはいかない。続々と帰宅する弟たちを食卓に誘い、手を合わせた。
 
「なぁ十四松」
「なぁにー?」
「一松のことだけど、どんな風に変なのか教えてくんね?」
銭湯にて。6人で連れ立って毎度のごとく湯船を占領している。他の客はまばらで、しかも体を洗うとそそくさと出ていくものだから、今湯船は俺たちの天下そのものだ。もし遠慮で湯に浸からず帰っているなら心底もったいないことだと哀れむが、他人が和を乱すようにテリトリーに入ってくるのは御免なので文句は無い。それでいいんだ、みんな体だけ洗って帰ってくれ。
さて、湯船でクロールを始めそうだった十四松を捕まえ、昼のように耳打ちする。一松への違和感を突き止めるには、まずそれに気が付いたやつから言語で説明を受けるのが一番だ。相手が十四松なのがやや不安要素だが、何かひとつでも材料があるに越したことはない。根回しは材料ありきでやるもんだ。たぶん。
頭に手拭いを乗せた十四松は、喉ちんこが見えるほど開けた口からあーみたいな思考中の音を出し、しばらく壁の絵を見上げていた。俺もなんとなくそっちを見る。十四松が、謎モチーフのカラフルな絵を見ながら、ぽつりと言ったのは
「さみしい」
だった。
...へぇ、一松のやつ、寂しがってんだ。本人に聞いた訳じゃねぇけど。でももし聞いてもあいつ、本音隠して強がるだろうし。確証は無いが、これが真実と仮定してみよう。
「現場は押さえたか?どんなとき寂しそうだと思った?」
「うーん...」
十四松の返答を待ちながら、そっと残る4人を盗み見てみれば、互いに湯を浴びせあって騒いでいるようだった。特になんのことはない、普段の光景。一松は水鉄砲でチョロ松の顔面を狙い撃っている。奇襲成功に破顔する。他の2人も楽しそうにしている。やられたチョロ松は早速反撃に出て、腕全体を使って湯をぶっかけるから、波が立って俺のいる所まで大きく湯が靡いた。
 
「お、今日はカラ松がシコ松か?」
「...なんだ」
就寝前。トイレに向かうと、同じくトイレを目指しているらしいカラ松に出会す。ちょっとふざけて話し掛けるのはいつものことなのに、なぜか毎回やや塩な対応を食らう。ブラザーには優しくしてほしい。兄ちゃん辛いよ、なんつって。先に来ていたのは明らかにカラ松の方だったが、長男権を行使して横取りする。戸の隙間をすり抜けてトイレを取られ、不機嫌になるのは仕方ないだろうと慮ったが、この次男はトイレの戸を閉めて俺のプライバシーを確保した。まじか。ちょっと戸を閉める勢いが強めだったけど、その優しさは素直に受けとるぜ。
「全力で急げよ」
「へいへーい。んでさぁ、お前から見て一松って最近どう?」
「一松...どこかおかしいのか?」
戸の向こうに立つカラ松の纏う気配がさっと変わる。もう俺が個室内でだらだらとしていることなどどうでもよくなったという風だ。こんなだから頭空っぽだって言われるんだよ。扱いやすいから俺にとっては良いんだけど。
「別に心当たり無いならいいんだよ。気にすんな」
「いや、しかし...」
歯切れ悪く何かぼそぼそと呟いている。よく聞こえない。カラ松がひとりで溢している呟きの内容が知りたいわけではない。あいつまどろっこしい話し方するからな。聞いてるとこっちの精気が吸われる。すげー疲れるんだよ。だから、カラ松が何を言ったか、ということよりも、カラ松がどんな反応をしたか、に注目する。ほら、一松が最近変だってことが奴にとっては気がかりらしいって分かった。そんでもってそれを知らなかったことも。カラ松は一松に何かと絡むし、一松の方もカラ松に嫌がらせにしか思えないようなちょっかいをかけるし、お互いになんだかんだ距離詰めようとしてるんだよな。決して上手く行ってるとは言えないけど、放置して知らぬふりするのも一種の応援だ。...二人に関わると精神的疲労感が半端じゃないから避けたいってのもあるが。
俺が、いじらしい...と男に対して使うと甚だ気持ち悪い形容詞だが、いじらしい弟たちの今後の関係性などに思いを馳せていると、流石に長すぎたか、トイレの戸を一発拳で殴る音で脅された。かなり力が籠っていた。おーこわこわ。
「悪ぃ悪ぃ、小便止まんなくって」
「そんな報告は要らん」
謝ったのに睨まれた。眠いから機嫌悪いのか?トイレを背にして二階へ登る階段を目指しながら、頭の後ろで腕を組む。あー眠い。今日昼間寝てねぇからじゃん。今晩はよく寝れるかねぇ。昼寝無しだから心配だ。
 
翌朝、布団の中で目を覚ますと、既にひとりだった。起こせよ。誰も俺に声を掛けず、さっさと朝食に飛び付いたらしい。取り残されていた俺は、ひとりでパーカーに着替えながら己を慰める。いや、自慰じゃねぇから。「俺の寝顔が安らかすぎて叩き起こすのに忍びなさ感じたんだよ」とか「俺まだ成長期だからみんな配慮してくれたんだ」とか、そんな感じで自分励ましてるだけだから。
はぁ、体だっる。
階下では、案の定朝食タイムが展開されていた。なんで起こしてくれなかったのか嘆くと、うざったそうに顔を向けたトド松が、無言で顔を卓に戻した。え、何か言えよ。なんで一旦こっち見たの。
トド松をガン見しながら食卓に付く。ドカッと腰を下ろし、右隣に座る奴の顔面に穴を開ける気合いでレーザー視線光線を浴びせる。ノールックで箸を掴み、左手で茶碗を持ち、白米を食う。白米ばっか食ってる。俺が。だってトド松の奴、こんなにガンつけてるのに素知らぬ顔で朝食続行だぜ。なんだこいつの不動さ、てめぇの肌感覚狂ってんのか。刺さる視線に気付かない鈍さ、いつかリア充ぶってる報いを受けろチンピラに絡まれて完膚無きまでにのされちまえ。
...くそっ、こいつがわざと俺にガンスルー決めてんのはわかってんだよ。鈍感なんかじゃねぇってよーく知ってますとも。敢えて、無視ってるんですねーはいはい。
「ちょっと!それ僕のなんだけど!?」
「んあー?今俺の前にある皿ってこれなんだよ」
「僕の方に体向けて前とか屁理屈こねんな」
「やっぱ卵焼きうめーな」
「聞けクソ長男...」
あ、今日パチンコ行こ。適当に3人くらい連れてくか。奇跡が起きれば誰か軍資金援助してくれるかもだし。頭数が多いのはこういうとき便利だよな。
あ、例の件に進展もたらすために一松とカラ松置いてこうとしてるとかそういうんじゃないよ。うん、違うからね。そう考えたいならそれでもいいけど。俺の真意ではないって、これしつこくアピールしとく。
「パチンコ行く人ー?」
「てめぇマジで話聞けよオイ」
「トド松は行く、と」
一人確保。当のトド松は今にも暴れだしそうだが、付いてきたらいくらでも話聞いてやるよと言って強引に丸め込んだ。その後、名乗りを上げるカラ松を5回ほど無視し、途中でチョロ松と十四松を引き入れることに成功した。流石この長男は違うね。人望に溢れている。順調順調。
オールスルーしたカラ松には、最後に申し訳程度に「今日は4人で行きたい気分だからさ」と述べておいた。自分でもスネ夫感半端ねぇなとは思った。特に反省はしてない。
 
 
おそ松は自分と一松を除く3人と共に今しがた家を出た。パチンコに行くらしい。今日は俺のカラ松ガールとの出会いの直感が今ではないと訴えるから一日フリーだったのだが、メンバーに入れられず、待機勢状態である。朝食の後、自分と同じく残された一松はどこかへ姿を消した。玄関にサンダルはあったから、家にいるはずだが。
最近、一松とは会話という会話をしていない。ぷつりと、絶えてしまったのだ。否、正しくは、絶やしたのだ。自ら。約一週間前のことだった。あれから一松と距離が出来てしまっている。
喧嘩をしたのではない。俺が勝手にショックを受けて、それが一松に話し掛ける勇気を奪っている。それだけ。俺が原因。ぼんやりとちゃぶ台に肘を付いてため息を吐く。エアコンの稼働していない居間はもんもんとした熱で埋まっており、暑い。冷房を効かせればいいのだが、リモコンのボタンを押すための移動を含めた労力を惜しみ、効きをよくするために戸を閉めることを考えると非常なまでに面倒が襲う。ベリーファインなサニー...。
カラ松はおもむろに立ちあがり、廊下に出た。家における冷暗所的な地点を探すためだ。エアコンを点けるのは容易いが、点ければ母親からの電気代もったいねーだろアピールが飛んでくる可能性もある。直接的に叱られないことで、却って罪悪感を駆り立ててくる。あれは居たたまれないから避けたい。
涼しい方へと歩を進める。玄関から離れるほど影が濃くなり、それにつれて気温が下がっているように感じられた。木張りの廊下はひんやりとしていて、下越しにも体温より冷たいことがわかる。
 
「ん!?一松?」
突き当たりにトイレがある所まで来た時だった。角を折れると横たわる体。
ジャージからのぞく裸足が見える。倒れている。
夏だから。熱中症か?焦って駆け寄り、トイレの前で仰向けの一松の肩を叩く。薄く目を開けた一松は、俺を俺だと確認した後、一言も無いまま目を閉じた。これは重体かもしれない。無理に動かすと駄目だったか。それは頭を打った時か?熱中症?対処法は。水と涼しい場所が必要か?
「いっ、今水持ってくるからな!」
靴下を履いているせいで滑りそうになりながら廊下を走り、台所で水を調達する。冷蔵庫から出した冷たい水の方がいいんだろうか、蛇口から出る水をコップに受け止めながら暫し考える。数瞬もしないうちにコップには波々と水が注がれた。これを一松に...
「何やってんの」
「へ!?おま...お前熱中症なんだろ!無理に起き上がったら駄目だ!」
「え...俺熱中症なの...」
「トイレで水分出して脱水症状からの、この暑さでやられたんだろ!」
「...あそこが一番涼しいから寝てただけなんだけど」
ぐいぐいとコップを押し付ける俺を嫌そうに見て、でもいつの間にかコップを受け取っている一松がちびちびと水を飲む。水道水まず...とぼやき、もう一口飲んだ。呆気に取られている俺を他所に、コップに注がれた水の三分の二を流しに捨て、コップを適当に水洗いして朝食で使った食器の傍に置いた。淡々と動く一松は本人の言う通り熱中症ではないらしい。
勘違いで済んでよかった。安心したらどっと汗が噴き出した。台所は家の中では上位に入るホットスポットだ。人気はない。もわもわと熱気の立ち込める場所を好き好んで居座る人間は居らず、マミーも料理するときには暑さ対策を欠かさない。...はずだ。
「で、突然なに」
ひんやりとした目でこちらを見る一松。濡れた手をタオルで拭きながら、顔と目は俺を見ている。
カラ松は狼狽した。一週間前のことを思い出しておろおろした。視線は定まりなく宙を泳ぎ、空いた両手が互いにさ迷っている。
「また俺で暇潰しする気になった?」
カラ松は体に力が入るのを感じた。それを相手に悟られないように自然を装ってみる。一週間前のショックがぶり返す。なんとなく無性に嫌だった。この言葉が。ひまつぶし、という単語が。カラ松に言い様のない衝撃を与えた単語が、再び発せられた。一週間前のある日、その日の出来事をひととおり語り終えた時、言われた。いい暇潰しになった、と。それがショックだった。カラ松は暇潰しのつもりで一松に今日を話していたのではなかったから、相手との認識違いがあったことが衝撃となった。
ひまつぶし。
所詮相手にとってはそう呼称される程度のものなのだ。一日、二十四時間の間の、余った時間を埋める程度の。
俺はもっと大事な時間だと思っていた。ほとんど俺ばかりが喋っているが、時折入る相槌や素朴な疑問、皮肉の利いた感想を貰うことを大切だと思っていた。
一週間、重なる日々で話題ばかりが募るのに、相手がこれを求めていないのだと思うと、自分の中で消化してしまうのが最善なんだろうと結論する。溜まる話は体を徐々に埋めていて、容量が足りなくなりそうだ。堪らず一松以外の兄弟に語り聞かせてみたものの、話し足りなく感じた。物理的に時間を掛ければ満足を得られるかもと考察したが、悉く延長を拒否されるに至った。聞いてほしいことがあるのに、誰も聞いてくれてはいない。心の隙間に湧いたそれは、時の経過で侵食範囲を広げていくばかりだ。一週間前の、あの日から。
「あ、いや...」
「...そ。俺みたいのに話し掛けても虚しいだけなんだろ。気の利いた相槌なんて打てねぇし」
「違うんだ...。俺が悪い」
そう、俺が悪い。たかが認識の食い違い。勝手にあの時間に価値を見出だして、それを相手にも求めたせいで、うちひしがれているだけ。暇潰し万歳、暇潰しで結構、あっけらかんとそう言えたらよかったのに。俺は割り切れないでいる。
「俺が、勝手にショック受けて、今までみたいに話す勇気がなくなってるだけなんだ」
怪訝そうに眉をひそめて、一松は首を傾げている。暑苦しい空気が、体にまとわり付いている。背中を流れる汗の感覚が不快だ。
「...俺は、お前と話すのを、暇潰しだとは思っていない」
「え、まさかあれ...?」
ばちくりと音がしそうなほど目を見開いた一松は、急に落ち着きを失い、小さな声でやべーとかまじかよとかいった言葉を繰り返している。何が不味いことがあったのだろうか。何か声をかけるべきなのか迷っていたが、それより先に一松が口を開いた。
 
 
「...ねぇ、なんでカラ松兄さんと一松兄さん置いて来たの?」
パチンコにおける軍資金不所持のために予定を変更し、近くのコンビニで避暑中の俺たち。陳列された惣菜パンを物色しながら涼んでいると、トド松がやって来て問うた。
「ふふん、これは長男の務めのひとつなのさ...トッティ
トッティ言うな」
「あの二人なんかあったっけ?」
きょとんとした顔で話に入ったのはチョロ松。こいつは場の空気を読むのは下手じゃないが、水面下の諸々を察するのが壊滅的に下手くそだ。クラスの誰と誰が付き合ってるか、言われるまで気付かないタイプだろう。はっきり言って鈍いやつだ。間違いない。鈍感野郎、シコスキー。
「...おい、長男?」
チョロ松が小さい瞳孔をさらに小さくして眼光を鋭くしてくるので、降参の印に両手を上げる。両手のひらをひらひらさせると、冷風がよく当たって涼しいことを発見。ラッキー。
「まぁ落ち着けチョロ松。俺は何も失礼なことなど考えちゃいないぜ」
「嘘にしか取れねぇ」
「...物分りのいい弟は無視だ。んで、トド松、俺はやつらのために用意したんだよ―」
 
 
俺は冷房の効いた居間で一週間分の出来事を洗いざらい話している一週間前のことだと前置きしたときの一松の顔は若干引いてるように見えたが、前みたいに聞いてくれているから拒否反応ではなかったのだろう。話の途中で「よくそんな細かいこといちいち覚えてんね」と誉め言葉を貰った。
冷風が部屋を満たし、とても居心地がいい。夏の涼しいは夏の燦々たるサンフラッシュと同様、必要不可欠の要素。
 
「俺が暇潰しだって言ったの、あれ俺なりの誉め言葉...のつもりで...」
だって俺らニートにとって、持て余した暇に嬲り殺されないことってめちゃくちゃ価値あるじゃん。一松がゆっくりと紡いだ「暇潰し」の意味を耳で受け止めて、脳で理解して、そうしたら目の奥がきゅっと熱くなって、部屋に籠る熱気も相まって、混乱してきて、我に返ると床に倒れていて、みぞおちに鈍痛が走った。俺はしつこいくらいに尋ねたらしい。
また話していいのか、と。
 
 
「―あいつら二人のための、座談会をな」