創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

トゥギャザーしようぜ(カラ一カラ)

限りなく色松に近いカラ一カラな感じでどうぞ

――

「俺が来たぜ、ブラザー」

無意味に等しいにも関わらず、カッコつけた声で現れたのはカラ松だ。俺は逆光になっているそいつの影をちらりと見、すぐに手元に目線を戻した。手の平から伝わる猫の体温。幾度か背中を撫で、手を引けばしばらくその辺を歩き回った後で姿を消した。身軽だ。路地裏で薄暗さに隠れているのは俺も猫も同じであろうに、別物だなあと思う。
ゆっくりと腰を上げる。建物の影で幾分か体感温度が下がっているとはいえ、現在は夏。8月である。外は申し分無く暑い。しかも先程から雲間を縫って日が差し始め、路地を抜けた先が異様なほど光っている。あれ溶けるわ。俺が。直射日光照射厳禁な体なんで。
「日が照ってきたな」
俺が特に何の反応も寄越さないのは常のことなので、気にしていない様子でカラ松は呟いた。空を見上げてひとりごと状態のその姿は、ちょっと気の引けるものがあった。まぁつまり若干引いた。
「...だるい」
暑い中家へ向かわねばならない。日が落ちるまでここに居座ることができないわけではないが、手持無沙汰にさせられた。こいつのせいで。呼んでもないのに来るのだ。そして猫がみな逃げる。
これはもう大分長く続いた習慣で、この頃は「今日もいつもの所か?」「まぁ」という会話だけでこいつは来る。来てくれと頼んだことは一度もないが、自分の居場所を伝えているのだから来てくれと言っているようなものかもしれない。
家の外でこいつと会う。...向こうから勝手に来るのだが。そして目的地無しにその辺をぶらぶらして帰宅。
悪くないな、と思っている。二人で居るときにはなんとなく、波長が合うのか、俺がこいつの中から無意識に気に入る特徴でも見出だしているのか、悪くない時間を過ごせているように思う。だから今日もこいつはここに来たわけだ。俺が自分の場所を教えたから。
「歩くか?」
「えぇ...。太陽の下なんて歩きたくないんですけど」
ついでに「お前が暑苦しいから太陽がつられて顔出したんだよ」とげんなりマックスの顔で付け加える。カラ松は咄嗟にすまんと口走り、直後にスイッチを切り替えて申し訳ないアピールとともに自惚れ始めた。太陽をも巻き込み天候を左右できる俺、だとかなんとかほざいているが、お前に天気を操る能力があるとは誰も言っていない。
路地裏で日暮れまで待機するのは現実的ではないな。じっとしているのが苦手に違いないカラ松と一緒に長時間ここに居れば死人が出る。カラ松が死ぬ。
くどい自意識過剰発言を聞かされ続ける地獄は回避するのが得策。仕方ない、まだ熱射浴びるほうがましだ。一松はため息を吐いて路地の境界へ向かう。それに気が付いたカラ松が小走りになって付いてくる。
二人並んで路地を出た。思った通り、眩しいし暑い。一松はすぐさま日陰を探した。とにかく太陽光から身を隠したい。溶ける。
「無い...」
「何がだ?」
はぁ、とがっかりを吐き出す代わりに諦念を呼び込む。影は短く、ろくに身を隠せそうな影は降りていなかった。店の際なんて歩きたくないから、そこに影があっても論外。俺がもう少し図太ければお洒落なカフェなんかの扉の真横をしれっと通過できただろうに。こうなったらできるだけ短時間で日向を攻略するしかない。一刻も早く家に帰る。
「別に。お前が太陽呼んでくるのが悪い」
「え、いや...なんかごめん」
「...お前悪くないでしょ、勝手に日光撒き散らしてんの太陽だし」
「...ああ」
カラ松は混乱したような顔をしていた。結局俺は悪いのか悪くないのか不明だ、と考えていそうな顔をしている。そんなのは考えるだけ無駄というものだ。カラ松はいつだって悪いし、悪くないのだ。燦々と照らされて、服がひどく熱される。火が着くかもしれない。服が燃えて、俺が火だるまになって、そしたら大層眩しいことだろう。発火するほど熱いのだから、太陽が眩しいのと同じで目が痛くなるほど光るはず。いやでも、俺みたいな影の住民が燃えて発光なんてするか?闇から光は生まれるのか?確かに最期くらいパッと輝いてみたいかもしれなくはないが、どうせ光ってもなあ...。メリットねぇし。うん、焼死するとき光るのはやめよう。
「暑いな。何か水分持ってきたか?」
「あ?いやなにも」
「俺もだ」
それで会話は終了したが、なぜ急に話し掛けたのか不思議に思って横目で相手の顔を伺う。心なしか疲弊している様子で、歩行速度は問題ないものの、表情が死にかけていた。弱い。こいつ喉渇ききってんな。別にそれを隠す必要は全く無いが、アホみたいにわかりやすく表れている。気取る体力も残ってないのか。普段こいつは当然のごとく自分のことを覆って見せないから、今みたいなのは少し驚く。所詮こいつも人間ってことか。ふぅん。
「...コンビニ寄る?」
「一松、お前金持ってるのか!?」
「持ってないけど。持っててもお前には奢らない」
「オゥ...」
カラ松は言葉では大袈裟にがっかりして見せたが、反してその表情や態度は先程までとは比べようも無いほど上向きに転じていた。こいつとは別の一個体である俺でもすぐにわかるから、相当だ。コンビニには避暑のために邪魔するだけで、飲み物は得られないと理解しているはずだ。それなのに、今にもハッピーを振り撒いて歌い出しそうな雰囲気。俺の肩に腕を回してくる。やたら足取りが軽い。絶対にこにこしてるし、ちょっと鼻歌聞こえる。
 
「暑苦しいんだけど」
「大丈夫だ」
「は?」
「今熱ければ熱いほど、涼しいがデカくなるだろ?」
「...バカらし」
我慢して熱中症にでもなったらどーすんの、そう言ってジトッとカラ松を見れば、丁度目が合う。そして、こいつは口では何も言わないで、じっと俺を見たまま眉を下げて笑った。ぶっ倒れる時は一緒だぜ。俺は表情からそう読んだ。
 
トゥギャザーしようぜ、という不要なエコーが脳内にこだましている。
...まぁいい、トゥギャザーしてやるよ。