2022/9/19
あ。
意図せず喉が音を出す。露伴は慌てた素振りを気取られぬように細心の注意を払って、口を閉ざした。次いで左手が口元を隠しに来た。
バレるじゃあないか。うっかり言ってしまった然のこの姿。さっと手を下ろす。自然に見える、手の置き場を高速で探す。背中が向いていた仗助の振り返る動作が目に映る。スローモーションか。否、等速だ。
仗助は幾らか瞬きをして、それと分かるか分からぬかの境で微かに首を傾げた。この間、無言。一方的に捲くし立てたと思いきや、ふっと静かになる。その加減に規則が見えなくてペースを狂わされる気のしたものだが、最近なんとなく掴めてきた。要は相手の話すことがあるか否かを読んでいるのだ。
仗助は普段と変わらぬ様子で、食器を並べるところだった。こいつが動くとどうにもスキップの極薄なやつが織り込まれているように見えるのは年齢のせいだろうか。精神年齢。
「お粥じゃなくていいのか?」
「気遣い無用っすよ、今朝からろくに食えてなくて腹ぺこなんで」
ふぅん、感情の温度の篭もらない声を出しながら、口角が僅かに上昇したのを感じ取る。心配なんて真似事ですらしないが、起床から弱った姿で臥すほどの症状は治まったのか。まるで食欲のない反応は異質で、僕は柄にもなく大丈夫かと思ったのだった。そんなやつを放置して仕事に取り組んだが、半日で通常運転に復旧したのには驚いた。仗助の健康体を疑ったのではないのだが。
「もうワクチンじゃなく薬ができてもおかしくない時期なんだがなぁ」