創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

小石

2022/8/25

 

前世は人だった。

記憶持ち転生なんて、都合のいいフィクションの中の話だと思っていた。まさか自分の身に降りかかるとは。
今生は小石の欠けたやつとして生まれたが、記憶は何処に宿っているのだろうか。脳みそがあるわけでもなし、中までぎゅっと礫の塊である。人間の科学の知識が通用せず、小石界の郷に従って過ごしている。
 
存外に、前世が人であった小石は多いらしい。周囲に片手で収まらぬ数の元人を確認した。まぁ、石に手指は無いから、片手も当然ありはしない。前世の身体状況は説明するとき役に立つ。言語が人目線で構築されていることを実感する。
「来世は石になりてぇって願ったわけでもねぇのにな」
「そうだな。猫になりたいとは言ったことがあるが」
「俺、何になりたかったんだろ…なまじっか記憶が残ってるせいで、人を辞めても悩まなくちゃならねぇ」
「生きるって、だりぃよな。もう終止符打ちてぇわ」
「寝て過ごす自由が有り余ってるだけラッキー」
口々に発言し、自然と揃って黙る。キャッチボールになるほどの会話が見られることは無いし、突飛なことを呟いても気に留める者はいない。そんな会合が不定期に開かれた。補足すると、不定期というのは、誰かがこのペースで集まろうと決めた周期通りにメンバーがテキパキと集まるのを定期とするなら、誰も何も提案していないのにもかかわらず、いつも皆揃っている状態である。もはや、不定期よりも常時の方が相応しい。
「自分、今世でなにしたい?」
「何も」
「小石の特権だしな」
「ごろごろして、前世で見た映画のストーリー思い出して、片手間にスマホ弄るイメージしながら、寝る」
「それってサイコー。前世で叶ってほしかった」
「はは、悲しくなるぜ」
前世は人だった。人、と一括りに出来ないほど細かに区分されるはずなのに、言語も文化も時代も外見も越えて、小石は意思疎通をする。こつん、と頭突きで握手をする。腹を抱えて笑うと坂道を駆け下りる。
人に蹴飛ばされながら、己との差を考える。思想あらば、人か? と。