創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

時代を感じた映画館(フェイキス)

2022/8/25
フェイキス©っていちゃつかねーんだよなあー。私の解釈ではさぁ。
 
「なんでオレ? ジュニアと行けよ」
「行けない理由さっきも話したんだけど? 耳付いてる?」
日の高い内からすでにアルコールの入ったキースを呼ぶ。ビール缶を片手に、一目瞭然のだるそうな顔を向けて、危険レベル微小な呻き声で反応した。
フェイスは映画のチケット情報が表示されたスマホの画面をひらひらと振って、ことのあらましを簡素に説明する。キースは顔をしかめた。
要するに、二人分のチケットを購入済みで、自分を抜いて一人分が余る。勿体無いから着いてこい、というわけだ。
「二回見りゃ勿体無くねーだろ」
「分身しろって無茶言うの止めてくれない?」
上映の同じ時間帯のものを二人分。当然だ。初めは彼女のひとりと観るつもりだったのだから。まぁ現状を鑑みればわかる通り、相手がいなくなって席は空いてしまったけれど。彼女に多股がバレて呆気なくおじゃん。割り切った付き合いができないなんて、心が狭い。他の子はこの映画、興味無さそうだしなぁ。アクション映画を一緒に見れる、貴重な子だったのに。
愚痴ったついでに誘ってみたが、あのおチビちゃんは憤慨して部屋を出ていった。気に食わなかったらしい。子供だなぁ。彼女だったあの子と同じ。
「お前、案外大事にするんだな、そういうの」
キースが顎でしゃくる先にはスマホフェイスの持つそれを指している。
「もう代金払ってんの。俺持ちだから無駄にしたくないだけ」
後で映画代出してもらっていい? と訊くと、滅茶苦茶嫌そうに顔を歪めて俺を見る。サイテーだな、と低く呟くのを聞いて、ふっと気が抜ける。
冗談だってば。付き合わせておいて金まで取らないよ。
 
おっさんみたいな感想を述べて、キースはストローから飲料を啜った。残りが無いようで、ずごごと色気のない音が響く。
「音の迫力が違ったなぁ」
「スピーカーが多いからでしょ。それぞれ別の音を出して動いてるように聞かせるの」
「はあー…よくできてるわ」
がらがらとコップを振って、氷をぶつけて音を出す。要るかと聞かれたので、要らないと答える。
劇場の外の通路には、大きなビニール袋が口を開け、上映のお供をした飲み物やポップコーンの容器をたっぷりその胃に収めている。フェイスは自分の飲んだ紙コップで塞がっていない方の手を出して、「ほら、片付けるから」
見えている片目をわざとらしくぱちぱちさせ、からかうような笑みを滲ませて見てくる。
「そういうところが、モテるんだろうねぇ」
お言葉に甘えて、そう間延びした声で残して、キースは歩き出した。置いて行かれたと冷笑したフェイスだったが、歩く背中がトイレの看板の下をくぐったのを見て、そうではないと知る。我慢してたな、あいつ。
思うとなんだかじわじわ来て、ペットの奇行を見たときの微笑ましさに似たものを感じる。底で冷えた水に変わっていく塊を退かし、コップをふたつ、重ねて袋に放り込む。半透明が、くしゃと嚥下の音を出す。
 
 
 

 

ポップコーンも食えやと思うだろう。小説なんだから買えばよかったんだが、私が昨日映画を見たときのお供はジュースだけだったんだ。