創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

映画館にある特別体験(ビリグレ)

2022/8/25
5年振りに映画館で映画見たあとのビリグレ©
 
久しく訪ねなかったモールは外装を新たにしていたし、細胞がアポトーシスを行うように、内からも店舗の改修で一新の只中であった。進行中の新旧の入れ代わりを見るのは、現在が絶賛過渡期にあることを思わせた。過渡期でない時代があるとは信じられない現代人がこう感じるほどだから、今はすぐに古くなる。明日にでも、時代遅れと化す道徳や倫理が生まれる。
「最近の映画も技術が進んでるね」
ボクちんびっくりしちゃった、とビリーは席を立ち上がり言った。空になった紙製のコップを片手に振り返る。視線が捉えるのはグレイである。
ふたり連れ立って映画館に来たのであった。
ぼうっとした様子のグレイに、ビリーは首を傾げる。
「どうしたの?」
「…あ、ちょっと、感動っていうか驚いちゃって」
漏れなく、ごめんねと謝罪の一言を忘れない。グレイは座った姿勢で、ほうと長く息を吐いた。そして眉を下げて力無く笑って見せる。曰く、圧倒されて足に力が入らないらしい。
ビリーは再び座席に収まった。以前、と言っても年単位で昔のことだが、以前のそれよりも遥かにクッション性が増し、包容力で眠りに誘うことさえ厭わないような座り心地にも飽きずに驚く。放映中ぶっ通しで座っていたというのに。
「臨場感がすごかったね…。映画館に来たなあって感覚が更にパワーアップしたみたいだった」
「ふふ、それでジュース飲むのも忘れちゃった?」
「あ、…うん、急いで飲むから」
先に行ってていいよ、とストローの中の声がくぐもる。グレイが一所懸命な顔で飲料を嚥下する。
 
「俺っち、今日のこと忘れられないかも!」
また来ようね、レンズ越しのウインクを添えて横を行くグレイに顔を向ける。彼は両手で持っていた紙コップを取り落としそうになるも、なんとか動揺を抑え、何度も目を瞬かせた。
驚き。
戸惑い。
喜び。
ころころと表情を変えて見せる。100%の喜びを表すに達しない笑みは、彼のネガティブの仕業だろう。曖昧に口角を上げ、不安げに是非を問うてくる。
いいの、なんて、良いに決まってるじゃん。
「今度はポップコーンも付けようネ」
「え、っと、僕の分も食べてもらうことになるかも」
また映画に見入っちゃうだろうから、と恥ずかしそうに頬を掻き、誤魔化すようにストローを咥えた。なかなかに必死の面持ちで喉を上下するグレイの頬が薄く赤らんでいたのは、飲むのに力んでいるせいか。或いは。
 
 

 

昨日行った映画館での出来事。本当は音響が立体的になってガンガンと心臓を揺さぶる衝撃まで書きたかったのだけれど、話が逸れるから割愛。ビリちゃんは映画もゴーグルのまま見るのかな、見るんだろうな。