2022/5/24
「たまに君を殺してしまいたくなる。或いは僕が死ねば楽になるだろうと」
薄くて白いティーカップに茶を注ぎながら。漫画を描く手を止めてふらりと窓辺に佇んだ時。敷居を跨いで帰ろうと背を向く俺を見送る前。さりげない挨拶みたいに忍ばせる。まるで記号になった挨拶のように、意味はないと強調される言外の態度。
繰り返し繰り返し聴いた曲が我儘に脳内で流れ出し、いつしか口を突いてメロディーを奏で始めるのと同じことを企んでいるのだろう。思い当たった日には手遅れ。策略を凝らした束縛の囁き、いつまで続けるつもりだろう。
「はは、またそれっスか。そのフレーズ、今の流行りだったり?」
さも当然の笑みを浮かべて、重みのない言葉をただ返す。そんな風にして、呼吸の中に混ぜて返してやったなら、やっと符合するだろうか。
俺は今まで声に出さなかったのだと。言葉を音に換えて、意味も乗せて、敢えて記号化しなかったと。考えていることはお互い同じだと。
お前を殺してしまえたら、はたまた自殺を遂げられたなら、一瞬でこの世界が凍結されるのに。もう動き出すことのない封印。永遠の不変を誓えるだろう。
今は、言わない。きっと言う必要もない。
もしかして、もう気付いているんだろう? それを言い当てて表面化しないだけ。
「ああ、ちょっとな。物々しくて笑い出したくなるだろう?」
「笑えねーよ」
笑顔。微笑む。お互いにだ。露伴も俺も上物の笑みを飾る。
最近こんなやりとりばかりしている。