創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

独白(仗露)

2022/5/24

 

 露伴は時折、俺にはよくわからない話をする。独り言みたいに。

 

幾日か立て続けて繰り出されることもあるし、一週間か、あるいは一ヶ月か、ぽっかりと忘れたように間を空けて次がやってくることもある。頻度は特定できないが、条件は読めてきた。

 俺にはあまり付いていけない話というのは、漫画の話だ。それも、どのタイトルのこんな物語が良いだの印象的だのと評論を交わすようなものではなく、漫画家である露伴が、自分の創作姿勢や信念の葛藤を見直す作業に立ち会うようなものだった。立ち会っているだけだから対話にはなっていないし、創作哲学とでも呼ぶのかもしれない独り言を、奴の背中越しに聞いた。

時には手元に雑誌を開いて見ていたり、意図せず寝てしまっていたりということもあったが、話を聞いてない俺を見咎める真似はしてこなかった。誰かがそれを聞いているかなんて関係がなかったのかもしれない。

 露伴のその癖、というより発作について、片手で数えられるくらいの浅い回数分独り言の相手をさせられた後で尋ねたことがある。

俺には漫画家の苦悩は想像も及ばないから役不足じゃないのかと疑問を呈したところ、大きな間もなく「それがいい」と言う。奴は真顔だった。普段から冗談も反論も真顔で紡ぐこいつのことだから、馬鹿にされたのだと思った。漫画のことも何かをつくり出すこともろくすっぽ知らないし関心もない俺のような奴だからいいんだと言った。これを言われて大分経った今、漸く正当な評価を表した言葉だと理解したが、些か語選ミスをしていると思う。喧嘩を売っていると取るのも無理はない。だろ。

「なぁ、俺って本当に役に立ってんの? アドバイスなんかしたことねーし、たまに話聞いてねぇんだけど…」

「人形や壁に向かって喋るのとは全く違う。僕はな、君が意志を持った生きた存在だってことを信用しているんだ。それだけで役に立つ条件を満たしていると言ったら、わかるか?」

 わからない。俺は口を尖らせ、頭を横に振った。どうしてこう、ややこしい言い回しをするのか。漫画家は皆そうなのか? 知識を持って何かを作る人間が皆そうなのか? 露伴は全身からやれやれといったオーラを出して、ため息までついている。わかんねーもんはわかんねぇっつの。俺はお前じゃあないんだから。

 ふいに露伴が頬を緩めた。ひとりで悦に入っているようで、見ていて気味が悪い。喉で笑いをくぐもらせて、ひとしきり肩を震わせると、突拍子もなく本を寄越した。反射的に受け取ってしまったが、この行動もまたよくわからない。なぜ本?

「俺活字見ると眠ーくなっちまうんスよ…」

「そんなものだろうと思った。だから、これは僕からのお礼、とでも思え。まだ日が暮れるまで時間はあるし、それまで家にいるんだろう? 読みなよ。読んで、感想を聞かせてほしいものだ」

「活字読めねぇって、聞いてました?」

「それイタリア語だぜ、頑張れよ」

「……」

 

なんなんだ? なんなんだこいつは。何がしたいんだ?