創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

マグロ(露仗)

2022/8/2
 初恋もマグロの味がすると詠んだのは誰だったか。いつだったか。
流行語にノミネートされたされないで取り沙汰され、華美とグラデーションをはやし立てる若い者が文脈などそっちのけで「初恋も~」と唄っていたのがたしか、数年前。あの頃だけは笑っていられたが、もう不謹慎なネタに数えられ、寧ろブラックユーモア専用の役回りへ変化した初恋マグロ。
 事は日本の漁獲がマグロに占められ始めて何年も経過し、スーパーに並ぶ魚がマグロに侵されるように種を減らす頃に至って起こった。専門家だけが感じていたマグロ危機を共有するようになった様々の人が、様々にこれを受け止めた。海から揚がるマグロは時を重ねるに比例して増えていった。
 そんな時世の中で生まれたのが例のうたい文句であった。人はスーパーでほんの気持ちばかりになった小分けの魚類(勿論マグロではない)を吟味しながら、或いは書店でマグロの文字のある書籍を見繕いながら、何となく見上げた空にマグロの正面顔のような雲を認めながら、揃って初恋もマグロの味がすると唱えたものだった。
 暫くして、ある噂が出回った。これもマグロと切っては切れぬ内容であった。
「醤油かけて食うと、マグロの味になるんだってよ。連日食ってっから味知ってんだっつーの」
「買ってきて文句言ってんじゃあないよ、全く」
露伴好きだろ、パチモン」
「いつそんなこと言った?」
 露伴と呼ばれた男が半透明のビニールからアボカドを出す。顔をしかめて棘のある言葉を吐いてはいるが、手は深緑の実を刃物で捌いていく。迷う動きを見せつつも、均等な厚さに切って盛り付ける。さながら、刺身だった。涼やかなガラス製の皿に盛ってあった。
「ご賞味あれ~」
 皿の存在感を引き立てようと手をひらつかせて見せびらかす露伴完全にふざけている。甲斐甲斐しく箸を持たせ、小皿に醤油を薄く張る。にやにやするのを隠しもしない。「食えよ、仗助」言った自分はプチトマトを口に放り込んだ。仗助は舌打ちをひとつ、緑と黄の虹をつまむ。
チクショウ、マグロじゃねぇか、大きな嘆声が夜の街に響いて消えた。
 
 

 

あとがき:何これマグロ。
アボカド+しょーゆ→マグロの式を知らねー世界で現代程度の文明に至ったバカ人類の中のろじょ。ろじょの縁もマグロなのかもしれない(でないと前半のマグロが無意味)。ビニール袋が規制されてないから20世紀かもなあ(とは言うが、「華美とグラデーション」が指しているのは私から見たインスタグラムである)。
食べ飽きた味<プチトマト がこの場合描かれています。私はプチトマトが嫌いです。