創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

ギャグの如き人生

俺は喜び多き人生にしたい。誰のものも、自分のも。

「兄さあ、自分が人間嫌いってこと自覚してるの」

下の妹の指摘に家族みんなが揃って笑声を上げる。俺も釣られて苦笑いになる。はは、は…。

「理由はある…俺は」

「自称ヒーローのおとぼけメンヘラ」

…と、庭に侵入してきたらしい近所の子供が、リビングの大きな窓越しに、台所のテーブルを囲う俺達に人差し指を向けている。俺はこいつをテンプレートのようなクソガキだと思っている。上の妹が眉をハの字にして嗤い、俺を見て「言われてますよ」の一言。

「お前に言ってるかもしれないだろ」

「私、自称ヒーローじゃないし」

じゃあ誰が自称ヒーローなんだ? 俺なのか? 俺なのか。これって普遍的に誰もが多少は持つ夢だと思っていたんだが。妹はヒーロー願望を持たないのだろうか。後で聞いてみたい。

「おいニート! すねかじり!」

「ニートじゃねえ!」

母親も父親も何か微笑ましいものを見たときの雰囲気を出している感がする。妹どもは素知らぬ顔で練り物を突く。酒のつまみついでに、夕食の前菜みたいな配役の皿だった。俺は今日は素面である。父親にたまに誘われるが大抵断る。父親はウイスキーをロックで傾けながら、合間に練り物を食った。酒とつまみの相性はわからないが、これは合わなそうに思う。母親は風呂に入ってくると言って席を外した。俺も合わせたわけではないが、あの子供の元へ行き、適当に話をつけてご帰宅促そうと思う。

薄暮である。暗くなる前に帰った方がいい、と告げるのがセオリーかつ大人な対応だとはわかっている。しかし屁理屈をこねて厚顔で居座られるため、学習したことには、

「うるさいから帰ってくれ。俺の悪口はやめろ」

「事実」

「今はバイトしてるのでニートじゃないです。さ、帰った」

背後で、適度に酔ったのかノリが軽薄になった父親が茶々を入れてくる。夜道は危ないから送ってやれと、もっともらしいことを言う。まだ日はあるのに。確かに子供がひとり夕刻の道をてくてくやっているのはとても安全とは言い難い。言い難いが。

釈然としない。

俺が玄関に回るから一緒に家まで歩くぞと子供に声を掛けたら、子供は俗に言うカエルの潰れたときの声を出し、顔面で嫌悪感を上乗せし、玄関へ一歩踏み出した俺を置いて逃げ出した。俺だって嫌々お供をしようとしたんだ。そこまで感情を剥き出しにするなんて、ちょっと、羨ましいな…。

 

数日経った。俺は平日はすべて家の敷地を出ないでライフワークが完結するから、久しぶりに外の景色を見た。週末の、図書館帰りの自動販売機にて。あの子供が劣勢に陥り苦境の様子。若干体つきのよい、恐らく年上と思われる子供数名に絡まれている。田舎の閑散とした昼下がりの自販機前でこんなの見られるんだなあと、今夜の日記には書くかもしれない。

俺は原付のブレーキを握った。

「ニート、あんまり格好良くなかった」

ニートって呼ぶなよ、とは言わないでおく。言うと面倒くさい。調子に乗って止めなくなる。

子供は、そう生意気なことを言い、死守した小遣いで買った炭酸飲料らしきものを飲む。しおらしくしている。

俺は、この子供に自称ヒーローとからかわれたのを思い出していた。仕方ないなと首を振る。場所を問わず、機会が許せば言い触らしていたことだ。恥ずかしがるなら端から言うべきではなかった。

「これからニートの家行っていい?」

「え。なんで」

「友だちいなそうだから、遊んであげる」

「…腹立つね。俺原付で来てるから歩調合わないよな…」

「当然、押すんだよ」

こうして、友だちのいなそうな子供を連れて、俺は重たい原付を押し押し家まで歩いた。上の妹は仕事に出ていた。下の妹は仏頂面をしてそそくさと自室への階段を上がっていった。因みにハの字眉で俺を笑った妹はこの上の方である。両親は共に不在で、それぞれの車がなかったことから何処かしらへ出ているらしい。俺は原付を屋根の下へ停める。洗濯物が顔を覆い、サイドミラーには引っ掛かり、行く手を妨害するので駐車場所を変えたいと常々思っているが言えていない。微妙に気兼ねしている。所詮扶養下の雑魚なので、物申す権利がどれほどのものか疑わしい。

日常的な悩みが脳を支配し始めたが、子供を連れてきていたことを思い出す。前回家に無断でやって来たときと同じ、リビングの窓の前に居る。しゃがんで、何をするでもなく佇んでいる。植木鉢でも見ているのだろうか。直射日光が全身に当たるのは体力的にしんどいが、小学校中学年くらいの子供を自室に入れる寛容さというのか、度量は無く、俺は消極的に熱中症を選んだ。土遊びで満足してくれれば楽だなと企んだ。

 

ニートって楽しい、と訊くので、まず俺はニートではないと断っておく。返す刀で顔を作り、強靭な精神力が求められると講釈を垂れておく。実経験で物を言っている。この子供はニートを目指したいと宣言したので、俺は無責任な発言を慎みながらも慌てた。きっとならないで済むならなるべきではないのではないか。社会がそういう風潮だし。ん、これ俺自身の意見じゃないな。

「ヒーロー、なるって言ったよな」

「応援してくれんの」

「しない」

スコップもゲーム機も漫画本も与えずに済んだ。夕焼け間近の空に変わってきた頃合いで、子供は立ち上がり暇乞いをした。付き添いは不要と即答した。やけに楽しそうににやついているので、今晩は好物でも出るのかなと邪推してみるが、多分違う。別れ際、公道までの砂利を踏む子供に激励の言葉をもらい、手を振りあった。俺は今、期待を背負ったのだと自覚した。

かなり重かった。