創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

恋愛小説

恨むなら、私の人生に登場したことを。私が望むと望まぬとに関わらず私の前に現れ出た自分の人生の筋道を。交差して離れなかった互いの人生の絡まりを。恨むなら、それらを恨め。

私は体術など会得していない。きっと相手の方が自分の体の動かし方には詳しいだろう。高校では運動部に入っていたし、現職は介護職員だ。それに引き換え日がな一日屋内でパソコンかスマホを睨んで、あるいは活字を睡眠導入剤として昼寝をしているようなぐうたらな私とは、身体的に差があることは明白である。相手の体を触らずともわかる。しかし、私はやらねばならなかった。半ば衝動に急かされていて理性的な思考に基づく合理的な行為ではなかったが、それゆえに寧ろというべきか、私は完遂せねばならなくなった。

相手を敷き倒す。理想はベッドの上、現実は硬くフローリングに頭をぶつけさせることとなった。驚愕が勝っているようだが、その隙間に痛みで顔をしかめたのを確認する。私の妹は、全く予期せぬ喧嘩の吹っ掛けと思ったかもしれない。もう十年近くこんな無粋な暴力的行為に及ぶことはなかったのだ。忘れていただろう。私が、この妹を泣かせるまで叩くのをやめない手法で喧嘩を終結させてきたことを。

私は妹の腹に跨り、眼下の双眸を見下ろしてみる。さいごに、目を合わせた実績が欲しかった。他人とは尽く目を合わせられない。こいつが相手なら、或いは。希望をかけた。

無理だった。後回しにすると決める。

愛を解釈するのなら、愛とは殺意の一種である。穏やかな殺意である。呪いをかけ、毎晩布団の中で手指を組み、相手の幸せと偽った相手の死を願うこと。私は、好意の相手を失った感覚と、その後の世界を経験してみたいと思っていた。ずっと。小説のネタにもなるし。この世界に好きな人なんてほとんど居ないが、妹はこれに含まれた。死ねばいい。そうして私の知らないところで全肯定の聞き上手になったり薄ら寒い嬌声で猫に話し掛けたりしなくなれ。もう私は苛つかない。死んでくれればいい。

恋愛というのなら、愛ともうひとつ恋がある。恋を解釈するのなら、これは加虐の一種だ。相手を傷付ける欲求のことだ。相手を、私が、私の手で、傷付ける、それを欲する感情だ。殴る、蹴る、叩く、痕が痣になる。切る、刺す、引っ掻く、赤く腫れて血が滲む。

私はこれから股の下に敷いた妹を、恋愛する。私だけが確かに保証する愛情表現であることを、ここに記す。

とはいえ私は他人を殺傷する技術に疎い。ごく一般的な現代人には活かせる知識があまりない。悩むことには事欠かないが、一蹴りジャングルに放置されれば一巻の終わりなのだ。軟弱な温室育ちの頭でっかちは、本当の意味で頭を使う方法を知らない。私は妹の額に頭突きすることにした。

 

妹は生きている。結局私はデキる現代人ではなかった。殺意を見様見真似で養っただけで、恐らく本物の殺意とは及びもつかぬ未熟だろう。果たせたら存分に目を合わせようと思っていたが、その計画も白紙だ。

絶対に死ねと言い捨てて妹の上から退いた。屈辱的だった。こいつの一挙手一投足に逐一苛々している未来が瞼の裏に映る。腹立たしい。暴力を振るって言動を束縛したくなるのを留まる。私は妹の生の責任を負うつもりはない。死は願う、死を与えようともしてしまう、それによってこいつの人生を私の人生へ溶け込ませようとしている。しかし、私は妹の人生と並走する気はなかった。

はやく好きなやつを見つけろ。はやく好きなやつを語れ。私の人生とは異なる方位を目指して進む姿を見せ付けろ。はやく、私のこのくだらねえ醜悪な恋愛をズタズタに切り崩して終わらせてくれ。考えの浅そうな、馬鹿っぽい笑顔を溢れさせて、穏やかで平和で円満な、負の感情をかき消す快活で、私に背中を見せて去っていけ。離れて離れて、私が追いつく気力も湧かないくらいに遠くへ行け。

はやく。

さもなくば、さっさと死ね。