創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

プロットならばキャラクター造形要らないとの論調で勇み足。暴論だろ、いいんだ私はやってて楽しさを感じた。

 

唐突に理解する。私は弁当の蓋を再び閉じ、目を閉じる。冷静に考える必要がある。ここで焦って水筒の麦茶を飲めば相手の思う壺なのだ。お陀仏なんてまだ望んでいない。ここで死ぬのは間違っている。選べるのなら、当然まだ死にたくない。

「外で買ってきます」

「え、でもお母さんに作ってもらった弁当があるんじゃ」

「それはそうですけど…」

なんとか外に出た。財布だけポケットに突っ込んで、仕事着のままだがコンビニに向かう。学校の体操服のようなこの仕事着で表を歩いたことは今までに無かったのでそわそわと周囲を気にしてしまう。誰に見られたとして、恥じることはひとつもないのに。

 

 

持参した弁当を丸ごと手付かずで家族に見せるのは躊躇われた。作ってくれた母さんに悪いのは勿論、相手を油断させられる可能性のために、弁当を食べたことにしておきたい。適当なゴミ捨て場が無いかと思案するが、碌な場所を思い付かない。悩んでいると、ふと、小学生のとき、給食のデザートをトイレに流して処分しようとしたとして咎められたクラスメイトがいたのを思い出した。しかしこの手段はどうだろう、植え付けられた道徳心が邪魔をする。

いやいや、そもそも食べ物を捨てる行為自体が良心の咎めを食うのだから、場所を吟味しても罪の重さは変わらないじゃないか。

 

「ただいま」

昨日までは降車した瞬間から歌っていた鼻歌を一切やめて、ちばけるのは無しに玄関の引き戸を開ける。右手後方の離れを睨むように意識して、母屋の敷居を跨ぐ。

夕飯だと声を掛けられてやってきた姉が、自分のコップに麦茶を注いで席に着く。ルーティンに乱れはない。私は姉を盗み見たが、その視線に特殊な反応を見せることもなかった。職場でもらった菓子に箸を指し、それは何なのだと尋ねる態度も全く不自然なく普段通りだ。不機嫌そうな表情も相変わらずで、食後はしばらく食器も片付けずに座っているところも違和感がない。

それが、異様だ。

この姉は、私に毒を盛った人間だ。昼の弁当に混入させたのだ。思えば朝が苦手な姉が、出勤前に顔を見せたことがおかしかった。うっかりして水筒には口を付けたが現状体調の変化はない。念の為に弁当と一緒に処分した。私は、弁当と水筒とを同時に摂取した場合に、特段の効力を以て毒が牙を向くのではないかと思う。当分、口にするものは選ばねばならない。

 

調子が悪いのか、と母さんに聞かれる。殆ど手を付けずに夕食を済ませたからだ。何も信用できる食べ物がないのだ、家には。姉は私を狙っている。しかしこの標的の中に、私以外の家族が含まれているのかが判然としない。私だけを殺そうとしているのなら、ジャーから出していない白米は食べていいと判断できそうだ。一方で、犠牲を問わず、目的を果たすつもりなら、自分が手を付ける予定のもの以外、あらゆる食べ物を毒の媒介役として使えることになる。

あるいは。大分前に見たドラマで、長期的に摂取して体が慣れていれば影響は無いが、不意に摂取すると致死性のある成分で殺人するトリックがあった。姉がそれをしないとも限らない。私は姉の一日の食事を記録しているわけではないから、どちらともいえない。ただ、性格的には、やりかねない。私の殺害計画がいつ浮上したのかがわかれば、より…。

風呂上がりに、ぱりぱりに乾燥したハンドタオルを首に掛ける。髪の毛の先から滴る湯をタオルに吸わせるのだ。風呂の区画の木戸を開く。そこへ丁度家猫が傍に寄ってきた。反射的に裏声で話し掛ける。猫は私にはさしたる興味も無いようで、進行方向から顔を背けることはなかった。そんな釣れないにゃんにゃんの背中に色々言ってみる。

と。ガツンとした衝撃があって、頭が痺れ始める。膝に力が入らない感覚に不思議を覚えたのも束の間、気付けば頬が畳に落ちて動けない。全身が重く、力の入れ方がわからない。視界もちかちか、ぼやぼやとして、ぼんやりと重体であることを悟る。

眼前に足が現れた。肩幅程度に開かれた足の上に、尻が乗り、ふくらはぎが横に平たく潰れる。私は眼中に映る短パンの尻を見ていた。

「まだ生きてるかな…。死因くらい知って死にたいだろうから、解説してあげようと思う。お前の死因は、ネコカワイガリです。すぐ別れるバカップルみたいで、見ていて不愉快でした。こんなことになるくらいに」

ぼうっとしている致命傷のところが、微かに圧迫されるのを感じた。姉が傷口を触ったのだと思う。傷口から溢れた血を付けて、その指を咥えて血を舐めとったことは知らなかった。想像だにしなかった。真顔でそう告白してきた姉を、私は久し振りにドン引きの気持ちで見ることになった。姉のこの余談を聞いたのは、姉がくたばる直前の枕元に立って、その死に様を観察しているときだった。既に死んでいる私に向かって生きてたのかと驚く顔は笑いものだった。

来世があったら許さない。