創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

エアコン談義

へえ、電車停まるってよ。警報器の故障だとさ。黄色の鉄扉が、かた、かた、と震える。すると合わせになっている一方の扉も感応して、同じ間隔で震えた。それが隣の組の扉に伝わり、また同様に震え、それに反応してもうひとつ隣の扉が、かたかた。モールス信号のように、言葉を伝えている。

「次の駅でしばらく待機だ」

了解、と一番端の扉が応答したものが、伝言ゲームで車掌直近の扉まで届く。そのころには、あと数十秒で停車する場所を走っていた。

 

「暑い」

実は振動だけでなく、思念でも会話できるのである。右扉は誰にともなく思念を飛ばした。エアコンの吹き出し口が応じて、お前が閉じてないから暑いんやと言う。最近ずっとエセ関西弁を使っている。本エアコン(の吹き出し口)はこの車両が岡山の南を往復するばかりなのを不満に思っているのだろうか。

「閉まれやお前」

「電気信号が走らなきゃ無理だ」

「努力はどうした、努力してみせろ」

「他人事のときだけそう言う…うるさいよ窓」

エアコン、右扉、窓がテンポよく口を開き、いや口は無いが、軽口を叩く。そういえば停車中なのを忘れていた。だから熱気が入ってきてんだよ戸を閉めろと、窓が苛立たしげな声音で思念する。それを受信しながら、右扉はありもしない背中を掻いた。

「お前いつから閉め切っていいって言われたの。三年前は隙間作っておかないと駄目な風紀だったよね?」

「コロナか。夏とか冬とか、空調の効きが悪くなっていらいらしてる客おったやんなあ」

「それいつの話? 昔じゃないの、覚えてないよ」

「まじかよ、窓…記憶消すの上手いな…」

「おい、おーい左扉?」

一度も思念を飛ばしていなかった左扉を気にかけてみる。右扉は全開になったゆえに最も互いの気配が薄れたこの状況で、かなり頑張って左扉を心配した。思念を消しカスみたいに飛ばしても無反応だ。ここまで徹底的な無視はされたことがない。更に精神を澄ましてみる。

「エアコンよ…左扉にその風当ててやれねえか」

「ごめん、可動域が狭いんよ」

「使えねーエアコンだな。室温も下げられんし」

「それはドアが空いてるからですわ」

「…この左扉…寝ている」

エアコンと窓はアイコンタクトを交わした。思念など必要なかったのだ。両人(仮)は思う、右扉だけワンテンポ遅れて状況把握しているな、と。