うちの初期仗露。2022/5/11
いや、だから。
一向に首を縦に振らない眼前の相手にため息をつく。
この僕がいいと言っているんだから、手でも足でも出せばいいものを。僕としてもそれに関心があるのだから利害は一致しているというのに。
この男、東方仗助は言うのだ、
「お互い好き同士でって決めてるんで」と。
嗤ってしまう。どんな夢物語を見ているのか。頭の中はびっしりと花が咲き占めているに違いない。感情など伴わなくても可能な行為を、無理強いしないことはおろか、こちらがゴーサインを出していようとも「同じ気持ち」でなければ意味が無いと一刀両断。
阿保だなあ。
せっかくの機を、みすみす逃すなんて。興覚めもいいところだ。
でも、「君の勝手だ、好きにすればいい」なんてつまらなく引き下がった僕も阿保だろうか。あいつの頭の中の能天気な花が移ったのかもしれない。目をきらきらと輝かせてなにやら意気込んでいる様子のそいつはなかなか、スケッチしてやらなくもない良い表情をしていた。
俺、頑張るッス
__そう言って肩越しに手を振って帰路へ向かう姿を見ていた。
見送るつもりは微塵もなかったのに、ふと我に返ると奴の背中は小さく、角を曲がるところだった。
…ふぅん、まあいい。妙なことになったが、これはこれで面白そうだ。