創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

身体損壊現象

眼が痒いなと思って指の背で掻いていたら目玉が取れた。親指の第一関節で目頭を押さえたときだった。ずる、と指が滑って、代わりに目尻から溢れるものがあった。初めは涙だろうと思った。涙にしては量が多いと感じたが、日頃パソコン画面の見すぎで眼精疲労が溜まっている自覚があったから、あるいは生理現象だと考えられた。目尻からの涙を拭いながら、反対の手で瞼を掻いた。瞼の皮膚を掻こうとして、これは異常が起きていると察知する。閉じた瞼の向こうから、高反発する目玉の感触がない。つい自然と自分の周囲を確認する。眼窩に収まっていなければきっと落っこちているのだろう。そう考えたからだ。案の定目玉は首を傾けるとすぐに見つかった。シャツの肩の部分から半袖を伝う赤い線の先で、シーツを僅かに汚して転がっている。一度目玉に付着した血液を洗い落とした方がいいだろう。視界が赤いと不便な気がする。球体を摘むと、シーツにはその痕跡が残ったが、鼻血と思えばいい。鼻血ならシーツが汚れることくらいある。漂白するのが面倒に感じたので、放っておくことにする。

 

シーツの上に落ちるのと、地面の上に落ちるのと、どちらがより衛生的だろうかとぼんやりしながら目玉を洗う。初めてのことなので力加減を誤らないよう、ある程度の注意を払った。水道水で濡れてきらきら光る目玉を掌に置いて見てみる。乾燥させてからでないと、沁みるだろうか。出血していたし、眼窩に傷口があればそこに沁みるかもしれない。あるいはプールで目を開けたときのような、眼の表面がひりつく痛みを味わうかもしれない。しかしドライアイは眼にとって良くないことのようだから、乾燥など以ての外だろう。

虹彩の向きを慎重に確かめて、所定の位置に押し込んだ。

 

シャツの肩口に血痕のあることを忘れていたので、家族が悲鳴を上げて心配してきた。どこも痛くないと答えたら、幾らか安心したようだが、鼻血ではなく目から血が出たと知ると、再び強い心配を示した。三十分も経たないうちに病院へと走る車内に乗せられ、ヒヤヒヤだかハラハラだかわからないが、緊張しているのでこちらも感染ってそわそわし出した。待合で長椅子に座る。

医者は言った。最近増えてるんですよと。体の一部が脆くなる症例だそうだ。最近といっても昨日今日とか今年去年とか、そんな直近ではなく、もう十数年前からちらほらと発症確認がされていたらしい。それがこの頃俄に増加の傾向を見せているとか。医者は他人事みたいな弛んだ声音で、耳を掻きながら自分も罹患していると話した。母が治るんですかと尋ねる。医者は変わらぬ表情で耳を撫でる。治るなら、否、治す方法が確立しているなら世話ないのだ。医者も身の上など明かさない。

母は見るからに絶望した顔をしていたが、口だけは前向きであることを忘れなかった。私を鼓舞する額面の言葉を経のごとく呟いている。

困ったな、怪しい宗教やセールスに掛けられてしまいそうだ。隠しておけば良かったか。