創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

見たいもの、見ないもの

朝日がきらきらと輝く。伸びた閃光は芝が広がる庭を照らした。目を細くして、さらに手傘でサンバイザーを作っている人間がひとり。段上から、庭を見下ろしている。鬱陶しげに顰めた顔はやはり感情の顕れのようで、男は舌打ちをした。
眩しい。不必要な程に。
そこへ足取り軽くして登場したのはうら若い少年であった。じょうろを携えている。中性的な見た目をしたその人型のものがさらさらと植物に水を撒くのを、男は知らず知らずの内に見守っていた。朝日が、水滴を照らし上げる。時折発光したかの如くに瞬いた。
男は咄嗟に目を閉じて、そしてまたぼやいた。舌打ち付きで。

「…なるほど。発見したのは仮想世界の根拠だったか」
硬い顔でひとつ頷き、階段の下り口に足を掛ける。段を踏む毎にだんだんと音が出る。品性が欠けているな、男は脳裏で感想したが、話題の展開は無かった。
少年がいる。朝の挨拶でもしようか。今朝はほどほどに落ち着いた精神状態であった。他人に気を払う余裕がある。逡巡は、時間にして羽虫が三度羽ばたく程度の長さであったろう。しかし、先手を取られた。おはようございますと声を掛けられて、男はやや狼狽えた。他人の不意打ちは驚いてしまうから怖い。
少年は葉の群れに水をやっている。顔はこちらを向いていない。男は浅く吸気して、喉を震わせる。

話そうか、話すまいか、いつも悩むところだが、少年に対してはその気兼ねは無かった。少年が男の憂うところを看破して気遣ったわけではない。男が頭を悩ますこの事柄を話したことはただの一度もなく、一方の少年にも他人の抱える一物や二物を察して取った様子はない。そのきっぱりとした互いへの無知からか、男は他では話すのを躊躇う考えをぽんぽんと並べることができた。少年は、太陽のある方角に顔を向けて、黙って聞いているようだった。
「すべての物質は原子に分解できる。この前提を踏まえれば、原子の集合体であるポリゴンが、我々含む全物質の形を成していると言える。ならば、この世界は極小のドットで構成された仮想なんじゃなかろうか。その可能性は、あるんじゃないか。と…思った」

音を立てないで、日は昇る。もう朝日の時間は過ぎていた。庭はまんべんなく日の本にある。しかし視界に瞬く輝点は、見るともなしに枯れていた。萎れた草場。枯死した蔓。降るたびに注がれる雨水に浸った茎、どろどろとしている。色褪せた厭世衰弱の庭を、男は横切っていく。鳥が囀っているが、その声は仄かに遠くから聞こえる。
この庭には、囀る鳥はいなかった。
干上がり、色は生命を失い、庭は微動だに許さない。一輪の花を咲かせるはずだったいきものもまた、庭の角に起立した姿勢で朽ちているのだった。