「おや、密くん。散歩かい」
「……」
夢かと思った。眼前の光景を凝視して、次に頬を強めに抓って、それから不思議そうな顔をしている相手を見てやっぱり思う。夢なのかこれは。
そんなに顔を顰めてどうしたんだいと尋ねてくる相手に寧ろ訊きたい。
なぜ木で足を吊っている?
「やれやれ、頭に血が昇ると、湧き出すアイデアもまとまらないものだね」
ひとつ学習したよと言って大きく伸びをする。未だ宙吊りになった浮遊感が残存していて足許が頼りないが、これは普段味わう機会は皆無の経験、いい詩に繋がりそうだ。いや、必ず繋がる。
「なにやってたの」
「見たら判ったろう、創作活動だよ」
本当は首を吊ってみようとロープに手をかけたものの死の得体の知れなさに竦んで路線変更をしたとは説明しなかった。何となく言えなかったのだ。