創作に人生さきとう思うんだ

二次創作ばっかしていたい。

工×議

月光の当たる窓辺から、そっと外部を見ていた。都市開発もそこそこに、ぽつぽつと一軒家が点在し、暗く影を落とした山が横に伸びる景観。シルエットとして浮かび上がるそれらを、ガラス越しにぼうっと見ていた。

 
コツコツと、こちらの気を引く音がする。音の出どころはというと、3歩もあれば辿り着ける近距離。透明な板が間に割って入っているが。
中指の背でガラスを叩いた手を開き、柔らかく振って見せる。その顔は月を背後にしたためにはっきりと読み取れないが、笑顔のようだった。
口をぱくぱくとさせて、何やら言っているらしい。しかし聞こえないな、としばらく読唇を試みたのちに諦めたと見え、おもむろに室内を搔き回してあるものを探し出した。
「出入り口はあちらです」
あちら、と指す方向を矢印で示し、ガラスの向こうでにこにこと手を振っていた相手に文字で伝える。スケッチブックに書かれた文面を認めたらしい彼は、肩を震わせ、背中を丸めて、出入り口のある方へ動いた。笑いが収まらないようだった。辛うじて、といった風体でサムズアップをしてみせ、覚束ない足取りで視界から外れた。
 
間もなく、扉の開く音がして、にこにこした彼が入ってきた。
「やあ、いい夜で」
そして流れるように応接用のソファーを占領し、すっかりくつろいでいる風である。先程の不審な挙動については何を言うこともなく、背もたれに体を預けている。
「えっと…ちゃんとドアを見つけられたみたいで良かった」
「別に迷子になったわけじゃないよ、アレ」
口許を手で覆いがちに笑いながら、進入は初めてじゃないからね、と言う。ああそうだった、と膝を打てば、ますます深みに嵌ったようだった。腹を抱えている。議員さんってば、と紡ぐ間にヒイヒイと肩で息をする彼は、つい数日前に出会った(向こうが侵入してきた)ばかりだった。そういえば名前も知らないなあ、駆け出し議員は思うのだった。
 
「議員さんって夜も仕事を…、って感じではないか。本当にいつでもここにいるよね」
「家より、好きなんだ」
「…逃避?」
「そんなんじゃない」
家族関係には問題として挙がる要素は何も心当たりがない。つつがない関係性だと認識している。そう弁解すると、彼は心のどこかに染み込ませるように、そっかぁと呟いた。
その後しばらくの時間、二人で何ともなしに言葉を交わしたり、黙って外を眺めたりして過ごしたのだが、俺の記憶は信用できない。なぜか、翌日から彼が自称秘書として働くことになっていた。
「だって議員さん、まともな意思疎通できないって思われてるよ」
俺が隣でサポートしちゃる、そんな趣旨の発言と共に、楽しそうに笑うのだった。